小説・漫画好きの感想ブログ

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「よるくも」2巻 漆原ミチ著 感想

 町と村と森。世界はこの三つに区分される。世界大戦があったのか、はたまた何かの汚染があったのか、背景は語られないが、世界は明確にこの三つに区別され、戸籍や生活も区別される。町は贅沢と富の集まる社会、町はややうらぶれ汚染されてはいるが活気のある社会、そして人が人として扱われない森。死んだ父のあとを引き継いで、町で食堂を切り盛りするキヨコとその母親のもとに、無痛症の青年・小辰が送り込まれる。食堂に肉を卸している荒磯精肉店という店の中田という男の紹介で現れた彼は、彼女らがすむアパートに住み込み徐々に親子とその距離を縮めていく。
 無痛症の青年の本当の正体は「よるくも」と呼ばれる殺し屋で、借金を踏み倒したもの、森の王の機嫌を損ねたものたちを殺す、無慈悲な、感情も欠落した殺し屋だった。彼は痛みを感じることがないだけでなく、物事を覚えることが不得手で、しかも感情がないために欲望というものをまったくもたない。誰かに言われなければ、食べることすらできない。痛みを感じられないために、ゆで卵を殻ごとばりばりと食べて叱られる。しかし、人を殺すことに関しては突出した才能を持っている。そんな彼に、感情と知能を与えようとして動く中田は、今回非常な手段を使って、「よるくも」の為に少女・キヨコの人生を再構築すべく動きだす。
 そのやり方や結末はネタバレになるので書けないが、中田が意図的にやっていること、よるくもが無意識にやること、そして母親が無意識にやること、のいずれもがひどくおぞましく悲しい。ここしばらくの漫画の中で、これほどひどく残酷で、不条理で、絶望と狂気に満ちた世界はあっただろうか。そう思ううくらい暗いダークな物語が綴られます。ただ単に、暴力的であるとか快楽的であるとか、人死にがたくさん出るだけの漫画より、こういう社会がきちんと動いている中で恒常的に繰り返される、不条理が常識としてまかり通る世界を描く漫画のほうが、深い闇を描くことを再認識させられました。
 
 

よるくも 2 (IKKI COMIX)

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