小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「おまえさん」上  宮部みゆき著 感想 

「ひぐらし」「ぼんくら」と同じ主人公達が活躍する、江戸時代人情捕物帖最新作です。
 辻斬りのように殺された身元不明の死体が一つ。それからほどなくして生薬屋の主人が自宅で密室殺人のような状況で殺される。傷跡から察するに同じ犯人による怨恨の線が強そうだが、果たしてこの二つの事件に繋がりはあるのか。また誰が何の目的でやったのか。この事件を、八丁堀同心の井筒平四郎とその甥の天才美少年弓之助とおでこの三太郎が追う。おばんざい屋のお徳や親分の政五郎をはじめとしたいつもの面々に加え、今回は新顔の出来物の同心も登場。
 個性豊かな登場人物達が、本筋の殺人事件と微妙に重なり合う幾つかの事件を行きつ戻りつしながら解き明かしていく。。。
 ということで、この作品、メインの一つの事件だけに絞ればもっときりりと引き締まった捕物帖になったと思うのですが、あえて作者はそうしていません。完全に余話といった話もあれば、人物像の陰影を濃くするための事件もあり、かと思えばそれぞれの人物の心境の変化を丹念に追うための事件もあり、といった感じでややもすれば冗舌、中だるみしているように思える部分もあるのですが、この作品の登場人物たちのいる世界・空気・世界の時間の流れを感じるという意味ではこういう群像劇スタイルも悪いものではないと思います。引き締まったミステリとしては評価できないかも知れませんが、人情物のシリーズ物としてはこういうのもよいかなと思います。
 多くの女性達のそれぞれの生き方に思うところを持ったり、それぞれの人生について思いを巡らす男性陣の屈託に共感するもよし、また或いは少年たちの成長を微笑ましく読むのもありで、ゆったりと秋の夜長を楽しめる作品ではあります。
 

おまえさん(上) (講談社文庫)

おまえさん(上) (講談社文庫)