小説・漫画好きの感想ブログ

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「サッカーという名の戦争 日本代表、外交交渉の裏側」 平田竹男著 感想 

 この本の紹介の前に告白してしまいますが、僕はにわかサッカーファンです。
 小さいときは関西に生まれた少年の宿命として阪神タイガース一色の野球少年でした。サッカーは授業でやるぶんには好きでしたし、嫌いなスポーツではありませんでしたし、「キャプテン翼」全盛の頃に高校生くらいだったような気もします。けれど、昔からのサッカーファンというわけではありません。「ドーハの悲劇」も、歴史的事柄としては知っていますがその時にテレビの前で慟哭していたわけではありません。
 自分の中でサッカーが強く認識されたのは、Jリーグが発足して、読売ベルディが読売グループの名前が入っていてどうだろうと物議をかもしていたのや、当時ベルディにキラ星のごとくいたスター選手、北澤だったり、キング三浦知良だったり、ラモス瑠偉だったりが僕の中ではサッカーの認知の始まりです。
 ですから、その後も「凄いんだなぁ」くらいで細かく戦術を知ったり、各国の詳しい状況を知ったり、ワールドカップを楽しみになったりしたのはずいぶんと後です。当時ガンバだったかにいた稲本潤一がロシア戦で日本初勝利の決定点を取ったときのが一番鮮烈なイメージでしょうか。考えてみればあの時は日韓でワールドカップを共同開催して盛り上がっていたのですが、、今はなんだか時間的にも雰囲気的にも遠い昔の話のようです。
 そんな自分ですから、この本に書いてあることがどれくらい正しいのか、どれくらい裏話的なものなのか、それともどれくらい我田引水だったり虚飾に満ちたものかも分かりません。だからこの書評は大いに的外れなのかもしれません。
 けれど、この本に書いてあることの半分でも真実であれば、日本サッカーは裏方もなかなか捨てたもんじゃないなと思わされます。サッカー事業の根底にこういうスタンスの考え方があり、こういう事情や思惑があって、日本サッカーというのは進んできたのだな、素人が思っていたよりは遥かに長期的な戦略をたてて日本サッカー界というのは育成されようとしてきたのだなと言う事は感じることができました。
 ジーコ監督がどういう基準で選手を選んでこだわり続けたのか、加茂監督がどういう流れの中で失意の中に退任したのか、同じ選手に対しても監督次第でこれほど評価が変わるのか(闘莉王など)などのくだりは「なるほど」と思いましたし、マッチメイクという仕事の面白さ奥深さと、そのために必要な人脈やネットワーク作りの大変さもよくわかりました。
 谷間世代と呼ばれていた世代(大久保嘉人松井大輔阿部勇樹ら)の苦しさやそこからの脱出。
 黄金世代と呼ばれていた世代(高原直泰小野伸二ら)の軌跡。
 なでしこジャパンは不意に出て来たように見えるけれど、実はJリーグ発足当時は世界で最大の女子リーグがLリーグというかたちで日本に存在していたこと。ハロプロ(特に吉澤ひとみら)があそこまで女子サッカー、フットサルにこだわった根底にあった意図は単なる芸能人プロモーションでなかったこと。
 なども分かりました。
 勿論いいことばかりではなく、この本が出版された頃とは状況が変わっていることもあります(この本、文庫としては最新刊ですけれど、新書は二年ほど前で)
 ワールドカップ日韓開催の直前までは韓国では日本人が来ることに非常に危機感嫌悪感があったけれど始まったときには、或は日本からの応援団が来た翌日には「日本人のフレンドリーさに驚いた」という雰囲気が広がり、両国は仲良くなるように見えた。或はいは北朝鮮問題で小泉純一郎元首相が北朝鮮に電撃訪問をしたあとの日本対北朝鮮の女子サッカーの試合で見せた両国の姿勢に、関係改善の兆しが見えた、、と書かれている希望的なところは結局その後また悪化してしまったのもこの本の出版当時からの変化として見ることが出来ます。
 中東の笛というのがなくなった、と書かれていますが、それがまた出て来ていますしハマム王子がその推進役となったと書かれていることに? マークがついたりもします。

 けれど、そういうところを差し引いても、こういう世界があり、サッカーというのはフォーマットや条件付け、契約、場所とり、アゥェーとホーム、飲料水に混ぜられた何かの下剤で集団下痢になったり、他のチームに死力を尽くさせる為に事件を大げさに誤解するのを放置したりと時にダーティなこともやりつつも、勝たせる為にありとあらゆる手段と戦略と戦術を練る裏方というものがサッカーの面白さを支えている一つの要素として認識できました。
 最初に書いたように、本当のサッカーファンからすると「にわか」なので、読み切れてない部分や誤解している部分もあるかも知れませんが、多くの同じようなにわかなファンからすると、こういう部分もサッカーにはあるのだとわかると、なでしこジャパンザックジャパンの応援にも今以上に力が入ることと思います。
 長友佑都本田圭佑内田篤人岡崎慎司香川真司李忠成川島永嗣長谷部誠遠藤保仁らが活躍するのを見るのがさらに楽しくなります。ザッケローニ監督の采配を見るのも楽しくなります。佐々木則夫監督率いるなでしこジャパンを見るのも、今以上に楽しくなるでしょう。澤穂希や、川島奈穂美、大野忍永里優季鮫島彩海堀あゆみらの活躍を見るのも楽しくなるでしょう。

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台 (新潮文庫)

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台 (新潮文庫)