小説・漫画好きの感想ブログ

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「 楊令伝 3盤紆の章」 北方 謙三著 感想

 北方版水滸伝の続編の第三巻です。
 梁山泊を打ち破って数年、宋はあらたな脅威にさらされていた。さまざまな流れの結果、宋は北・東・南でそれぞれの敵を抱えないといけなくなったのだ。北では金宋盟約に従って金が遼をを攻撃しはじめた為、それに呼応して燕雲十六州を奪還すべく遼の本拠地を攻撃しなくてはならなくなった。また、東(実際には北東)では梁山泊の生き残りたちがいよいよ再起の旗を掲げた。ここに江南の地からは新興宗教を隠れ蓑にした叛乱軍が百万人にまで膨れあがった。
 それぞれの方面に、十数万の軍を振り向けなくてはならなくなった宋。本来ならぱ、これだけの敵を抱えてしまった以上、国家が一丸となってそれに対抗しなければならないところだが、宋は決してそうならない。役人の腐敗が激しく、上層部は上層部で、皇帝近辺での権力闘争や軍部内部の闘争などもあり、軍事力は強大ながら国としてのまとまりが全くもてないのだ(まぁ、中国においてはもともとからして、長い歴史上でも、農民と国家首脳の間には一体感があまりないが)。
 そういうわけで、事態が錯綜している中、ようやくとタイトルになっている楊令が梁山泊に帰ってくるというのがこの第三巻のハイライト。前作「水滸伝」では、いくら持ち上げたところで、やはり梁山泊の面々に比べればちょっと子供に見えた楊令だが、今巻では「いかにも」頭領といった風格を見せる。その一方、実質的に頭領的な役割を担っていた呉用は、宗教叛乱組織の中枢部に潜入しているうちに徐々に変質していく。。。。
 「水滸伝」はどれだけ話が盛り上がっても、最後には梁山泊が負けると分かっていたのが、この楊令伝はどういうところに着地点があるのが分からないだけに本当にドキドキしながら読むことができます。

楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)

楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)

 追記:今回のお話の中で「血涙」「楊家将」にでてきた楊業や石幻果、簫英材の名前なども、ちらっとでてきます。