小説・漫画好きの感想ブログ

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バーでの話

 昨日、ひさびさにバーに飲みにいってきました。
 ひさびさに仕事の終わり時間が早くて行ってみますと、新しいバーテンダーさんが入っていました。彼は、近在の大学の一年生で、入ってまだ二週間たらずの子です。入店時に、珍しいくらいお客さんが入っていたので、マスターはそちらのお相手で手一杯ぽくて、バーカウンターの一番奥に座った自分を彼が担当してくれました。
 でも、まぁ、入って二週間くらいですから、カクテル自体はマスターに作ってもらわなくてはなりませんし、彼に出来ることはダスターやレモンの下処理や洗い物、お客さんとのトークくらいなんですが、それがいずれもまぁ当然といえばたどたどしい。
 お隣のお客さんがチェックとチェイサーを同時に注文したのですが、普通であればチェイサーを飲んでから帰られるんだから、ゆっくりと水を飲み終えたのを見てから入り口までお見送りにいけばいいのに、チェックをしてチェイサーを置いたら、すぐに入り口に行ってお客様を待ってしまう。これだと、早く帰れといった態度に誤解されちゃいます。すかさずマスターに注意されていたけれど、こんなことがたくさん出てくる。
 お客さんに会話を振ったら、全部話を繋げていかなくちゃいけないとどんどん話を膨らまそうと無理をする。グラスが空になっていたらまずいと気配りするつもりで、常にお客さんのグラスを見続けてしまう。かと思えば、洗い物とグラス拭きに集中するとそちらは完全に抜けてしまう。ちょっと高いグラス(1万円くらいもの)を洗って綺麗に手洗いで洗って拭いながらそのグラスの高さというか良さの説明をしていると、ずっとそのグラスをもってしまうので、いつ落とすんじゃないかとお客さんをハラハラさせてしまう。
 酒壜の名前がまだまだ覚えられなくて「あれは何?」と聞くと色々と考え込むんだけれどわからない。数学じゃないんだから、最初にわからなければ絶対わからないんだけれど。
 
 とまぁ、そんなこんなでいかにも新人さんだったんですが、奇妙なことに僕はこの店員さんを見ているだけでちょっと微笑ましい気分になってしまいました。
 それは、ちょっとどんくさいけれど、前向きに一生懸命でやろうという熱意であったり、まだまだ18なのにバーテンダーっていうおしゃれであると同時に渋い仕事に、本人が凄くウキウキして「ねぇねぇかっこいいよね」という無言の自負が溢れ出ている背伸び感がおかしかったでもあります。
 18の時はお客さんは何をされていましたか? なんていう質問も、無差別にお客様にするにはあんまりいい質問じゃないけれど、それさえも忘れて過去を追憶させる何かが彼にはちょっとありました。 
 もちろん、バーだから、カウンター越しだから許される話であって、これがレストランやなにかだったら絶対にダメかも知れないけれど、昨日に限ってはありでした。
 
 マスターとは昨日はほとんど話をすることが出来ませんでしたが、それでも店に行く前はいくぶんと暗い気持ちだったのが、店を出るときにはずいぶんと明るい気持ちになっていました。バーは、時として、本当にちょっと不思議な空間ですね。