小説・漫画好きの感想ブログ

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「接近」 古処誠二著 感想 

 本年154冊目の紹介本です。
 メフィスト賞作家、古処誠二氏の第二次世界大戦時の沖縄防衛戦を描いた歴史小説です。ずいぶんと薄い本ですが、日本にスパイとして潜入した日系アメリカ人と、本土からやってきた陸軍に憧れを抱いていた少年、また土俗の沖縄人たちの心の変化を描いた佳作です。
 読みどころが多くあってこれがこの本のテーマだと言い切るのは難しいのですが、強いていえば、今現在の在日米軍問題や普天間基地辺野古基地の基地移設問題の根底に横たわる沖縄県民たちの気持ちの一部がとてもよくわかる本です。琉球処分以降、言葉を奪われ、土地を奪われ、日本人に憧れたり幻滅したり、ともに戦ったり後に支配者が変わったりする中での暮らしを余儀なくされる沖縄の問題はやはり他府県と同列には論じられないと再認識します。
 とはいえ、そんな重い本ではなく、あくまで主人公が少年視点で動きますので、読んだのちに読み手が色々と考えるタイプの本です。たぶん二時間もあったら読めてしまうくらいの本ですので、是非に。「UNKNOWN」という自衛隊内部での事件を描いたミステリの軽妙さはまた違った魅力に溢れた一冊でした。
 

接近 (新潮文庫)

接近 (新潮文庫)

 追記:6月23日は沖縄慰霊祭の日です。この本を読んで紹介した偶然に感じるところがあります。