小説・漫画好きの感想ブログ

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「乙嫁語り」3巻 森薫著 感想 

 中東アジアを舞台にした、ミニマリズム的な書き込みが素敵な森薫作品「乙嫁語り」の最新刊3巻です。
 今回の主人公は、前二作で、主人公達の暮らしを民族学的な立場から観測記録していたイギリス人学者ヘンリー・スミスその人です。彼は、中東アジアのいろいろな部族の暮らしを記録していましたが、アンカラへと向かうことになった今回の旅でとあるロマンスの誕生と悲劇を味わいます。
 とある家に嫁いで来たタラスという女性は、最初の夫を病気で失ったあと、兄弟の嫁になるという風習のままにその亡くなった夫の兄弟4人と次々と結婚するものの、子供が生まれる前にそれぞれの夫と死別してしまい、今では姑の女性と二人でほそぼそと暮らしています。そこへ現れたのがヘンリー・スミスで、彼はなんとかタラスと結婚してくれと願う義母の願いを退けてアンカラへ旅立とうとしてます。タラスのことを憎からず思うものの、文化や風習も違えば生活の基準が違うことが気になり、諦めようとするスミスですが、タラスのまっすぐな気持ちに心が揺れ動いてしまいます。
 先が見えない旅の途上で見知った、心ひかれる女性。彼女を置いていくべきか、それとも自分のフィアンセとして彼女を求めるべきかどうか。彼の苦悩をよそに運命はそんな悠長な選択を彼に許してくれません。
 前2作を読んだ時点では、その1巻と2巻の主人公だったアミルを中心としたお話になるかと思っていましたが、今回はガラリと主人公を変え、そしてまた我々読み手に我々がごく普通に「当たり前のこと」として認めている文化・風習が世界的にみたら全然当たり前のものではなく、世界のあちこちにはそういう常識とは全く相容れない、さりとてそれを前時代的ともいいきれないそこの土地には確固としてある文化・風習があるのだということを強く訴えかけてきます。我々の理不尽は彼らの当たり前だし、彼らの普通は我々の理不尽だったれすることが、ごく自然に描かれます。
 こういう異文化の違い、歴史の流れの違いが、流麗で美しく、そして細密な森薫のタッチで描かれている本書は、読むだけで眺めているだけで楽しいし、常識や文化についてちょっと考えさせてくれる一冊です。
 

乙嫁語り(3) (ビームコミックス)

乙嫁語り(3) (ビームコミックス)