「かめ探偵K」 北野勇作著 感想
北野勇作さんのSF小説です。
主人公は、その名の通りカメです。亀にして名探偵、パソコンに詳しく推理能力抜群で、コーヒーとパンの耳をこよなく愛する亀のKが主人公のSFミステリーが本書です。
北野勇作さんといえば、「かめくん」や「ザリガニマン」「ウニバーサルスタジオ」などに代表される、よくわからないけれど動物をモチーフにした、ちょっと不条理でいつの間にか作者に煙にまかれてしまう、不可思議な非日常を描いたSFが売りですが、本書もその例に漏れない一冊になっております。
亀が探偵をするという特殊性にばかり目が奪われがちですが、旧世界と呼ばれる我々の住んでいたであろう世界はとうの昔に滅びたことになっていたり、それが時折現実の世界に現れたりしたり、新世界は新世界で本当に人間が存在している世界なのか、それともナノマシンが再構成したような今の人類とは本当は隔絶してしまった世界なのか、それともまた、誰かの作り上げたプログラムの中の幻想的な疑似世界でしかないのか、それすらも曖昧であったり、というSF的な要素も実はかなり強い作品になっております。
平易な文章とかわいいキャラクターの裏側で、こうしたハードSF的な世界があって、世の中なんてものは本当はどうなっていてどこまでが真実でどこまでが虚構で偽物かわかったものではないというスタンス(ある意味でとてもP・k・ディック的)を貫くというのは、この作者さんのデビュー当時から一貫して変わらないスタンスで、今回もそれはきちんと踏襲されています。
前作の「メイド・ロード・リロード」がちょっと失敗作っぽかったか(アスキー出版社的には表紙の「絶対領域」イラストからしても、違う層の受けを狙ったけれど北野作品の作風とは乖離が激しすぎた)のですが、今回のはまさに正当派北野SFです。
- 作者: 北野勇作
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/05/25
- メディア: 文庫
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追記:どうでもいい蛇足話ですが、Kという名前はどうしていつもこういう時に使われるのでしょうかね。「ロボット刑事K」とか「イニシャルビスケットのK」とか「スーパードクターK」とか。アルファベットは他にもいろいろあるでしょうに。。ひょっとしたら、夏目漱石の「こころ」から来ているとか、、そんなことはないですよね。きっと。