「内部被曝の脅威 原爆から劣化ウラン弾まで」 肥田舜太郎/鎌仲ひとみ著 感想
少し前から読み進めていた本です。
福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故以降、雨後の筍のように大量に出始めているジャンルの本があります。原子力、放射能、放射線、内部被曝、放射能汚染、原発の闇関連というのがそれです。それだけ世間の注目が高いせいもあるのでしょうけれど、ああもたくさん出てくると玉石混淆、いいものもあれば、とにかくセンセーショナルで中身が全くない本もたくさんありますし、ひどいものでは事実誤認も甚だしいものもあります。普通のジャンルのものなら、ある程度読み比べれば、それが客観的に正しいのか自分の主観を適当に書きなぐっただけのものか分かりますが、これがこと原発関連のものや放射能汚染のものは、著者によってかなり見解の相違や判断基準が違っていて、これをおすすめ、これが絶対に正しいというのが難しいし証明ができないものが殆どです。
そういう状況ですので、僕もあれこれ読み比べたりしていたわけですが、とりあえず一つの判断基準として、こういうのは使えるのではないかとおもった一つの基準があります。それは、原発事故以前に書かれていたもので、なおかつ原子力発電所や核物質に対して、それが事故を起こした前提ではなく、こういう危険性があったりこういう科学的データ、裏付けがあるもの、これは一つのジャンルとして読む価値があるなと思います。東電のどこが問題かとか、動燃や六ヶ所村の問題のような構造的な問題や、今回の震災時の対応についてはいまだ真実が明らかになっていないところもあるので、虚実の狭間がどこにあるか明白ではないという理由で進めづらいですが、さきの基準のようなものなら一つの判断基準としてよいかと思います。
そんなわけで、まず最初に紹介するのがこの「内部被曝の脅威」という本です。
これは、最近の世論では重視されていますが、日本の医学界や、原爆被害の認定についての基準では軽視されてきた内部被曝について突っ込んだ本で、日本での被害だけでなく、アメリカの海兵隊の被爆者や原爆実験での諸々の被爆者について、また広島・長崎での被爆者についての後追いレポートもあり、読み見応えがありました。また、初歩的、基礎知識として、内部被曝の仕組みや、もろもろの単位(シーベルトとは何か、ベクレルとは何か、グレイとは何か)の基本的な説明があったりと、ざっと内部被曝についての基礎知識を得るにはちょうどよいレベルでした。もちろん、セシウムやヨウ素やストロンチウム、プルトニウムなどの放射性物質が人体内部に入るとどのような内部被曝による障害を引き起こすのかについても詳しく書かれています。最近の本とはちょっと食い違うところや食い足りないところもありますが、基本はこれを押さえていれば大枠での理解はしやすいと思います。
今日からIAEAの査察団がまた日本に来ているようですし、東京電力も福島第一原発の1号機から3号機のメルトダウンを認めた上で、あれこれとデータをだしてきている今、東京から、首都圏から放射能汚染を逃れるために脱出すべきかどうか迷ったりしている人も多くいるでしょうけれど、そういう方にもこの本は読んでおすすめだと思います。いたずらに、放射能が漏れているから即座に300km圏内から避難すべきなのか、それともしっかりと理解した上で冷静に判断する道を選ぶのか、そういう参考にはなると思います。
僕は以前からここで書いているように、首都圏からすわ全面避難、というのには賛成できません。そこから動く事ができない人もたくさんいるし、そういう人を見捨ててしまうことも道義的にどうかと思うし、なによりそのことで日本が確実に終焉に向かって行くリスクについて考えると、あまり賛成ではありません。とはいえ、感情の生き物ですからそこから脱出する人を否定もしませんし非難もしません。実害そのものより精神的にそこにいることで実害がでる方は避難してもいいとも思います。また、家族の構成によってもその判断は違うのも理解できます。
ただ、それもこれもすべてはきちんと理解した上で各自が個別に判断されることだと思います。水素爆発、水蒸気爆発、再臨界、核融合、核爆発、それらのいずれもが起きると信じきっている人からすれば、プルサーマルでプルトニウムがある福島第一原発のそばに住む事すら既に精神的に耐えられないでしょうし、逆に、そこに住み続けるといっている人をいたずらに不安を与えるような言動や風評被害を拡大して周辺地区を再起不能にするような不確定情報の発信もよくないと思いますので、あとは各自でご判断いただければと思います。
とりあえず、この本を読むと内部被曝の危険性はとてもよく分かります。
- 作者: 肥田舜太郎,鎌仲ひとみ
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/06/06
- メディア: 新書
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