小説・漫画好きの感想ブログ

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「エコ論争の真贋」 藤倉良著 感想 

 本年109冊目の紹介本です。

 昨日の深夜まで何回か読み返していましたが、この本、かなりいいです。感情論ではなく、エコ論争の争点となる問題について具体的な数字を挙げるだけでなく、争点についての論者の意見を双方取り出した上で、間違っているものについては一つずつ検証の上、誤りを指摘していきます。
 コンパクトに読める新書版でここらあたりまで丁寧に書いてくれると、一読者としては非常に分かりやすくて有り難いです。新書はとっつきやすさや、内容を絞った形で一つのオピニオンをざっくりと理解できるというメリットはありつつも、反対意見については軽く流して真剣に検討しないという風潮も確かにありますので、この本みたいな例外は逆に嬉しいものです。
 で、この本を読んで得た結論というか、今までの争点になっていたことの結論でいえば、やはり地球温暖化は人為的な原因が多く、このままでは取り返しのつかない事態になる可能性が高いという当たり前のところから始まって、二酸化炭素排出が一番の問題点であること、リサイクルが無駄だという意見はやはりレトリックでしかなく正しいリサイクルは進めて行くべきであるというものです。
 例えば、日本ではリユースか難しいし意味があまりないだろうし、ゴミの分別に関してもプラスチックはものによっては燃焼させてしまったほうがいいというのは事実ですが、スーパーのレジ袋など削減していくことは大いに意味があるし、ペットボトルなどは分別回収するほうがやはり良い。
 IPCCの勧告や報告書などについては、一部デマであったり、数値の間違いがあった(例えば海面上昇までの年数や量)とはいえ、シミュレーションなどについては蓋然性が高く、二酸化炭素濃度の主たる原因が人間の活動によるものであること、特に化石燃料の燃焼によるものであることは、空気中の炭素の同位体(福島第一原発のおかげでみんな基礎知識は持ちましたよね)の比率によって明らかにそこに原因があることがわかっているので、そこを押さえるためには京都議定書以降のCOPなどで全世界的な枠組での対処が絶対に必要なことなどが語られています。
 彼らの間違えたことは間違えたことと指摘した上で、しかしながら、地球温暖化が嘘であるといったり、自然的なものでしかない、やっても意味がないという論法での否定論者にたいしては、「運転していて霧がでてくれば普通は誰でもアクセルを緩める。なにもしないのはブレーキのかわりにアクセルを踏み込むようなもの」と厳しく批判しています。
 
 わけても、武田邦彦氏(ちょっと前のいわき市の給食問題で事実誤認して市長を名指しで批判して失敗したので有名になっちゃいましたね)が、「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」で三点の理由をあげて「リサイクルには意味がないのでペットボトルを燃やした方がいい」といっていた問題についても言及があり、そのすべての論点が事実誤認だし論理的に破綻していることが証明されています。
 「なせウソがまかり通るのか」と書いてらした武田邦彦氏が実は嘘を書いていたという事がわかります。まぁ、嘘ではなくて、事実を今回のように誤認していて感情が先にたって筆が滑った、或いは、自分の主張を通す為にレトリックでごまかしたという話かも知れませんが、ここまで明快に論理だって示されたのを読めばあとの話も推してしるべしかなと思います。
 ただ、武田邦彦氏の擁護ではないですが、「エコ商品だからといって、再利用するものだからといって」紙や容器を無駄にたくさん使う事は同氏が言うように意味がないことだと思います。そこは正しいことで、日本は今まで以上にエコでやるべきだと思います。
  
 ただ原発のことがあったりしますし、東北の再建まではそれがいくらエコ的にもすぐれた新しいエルルギー政策や防災モデルを含んだ先進的なものになるにせよ、当面は日本のCO2二酸化炭素排出量の削減は難しいですね。製造業のシフトが産業構造の変化や節電で案外達成されるかも知れませんが。
 ともあれ、これは良著です。読みやすさも内容もベターです。
 強いて言えば、最後の捕鯨問題については、すでに出尽くした議論だから敢えていらなかったかなというくらいです。おすすめ。

エコ論争の真贋 (新潮新書)

エコ論争の真贋 (新潮新書)


 追記 武田邦彦氏についてはまた違うときにゆっくり書きたいと思うのだけれど、単純な話、彼の場合には、みんなが常識と思っていることと違うことを敢えていうことで人の注目を浴びることにポイントがあるように思う。そして、反対陣営に対して「悪魔の証明」を強いるタイプの論戦を挑む傾向が高いところからして、攻撃には向いているけれど、防御ができない人なのかなと思われます。菅直人さんタイプといえば一番わかりよいのかも知れません。まぁ、でも決定的な評価の前に彼の本もあと二、三冊読んでみます。