小説・漫画好きの感想ブログ

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「我、言挙げず 髪結い伊左次捕物帳余話」 宇江佐真理著 感想

 本年62冊目の紹介本です。
 
 髪結い伊左次捕物帳シリーズの文庫版最新刊です。
 廻り髪結いをしながら、北町同心の不破の小者として捜査に協力する伊佐次。本業の髪結いの仕事は手間賃仕事であり、事件が起こるとなかなか稼ぎがあがりません。そのせいもあって、いまだに自分の店が持てない彼ですが、恋女房のお文と所帯を持ち、子供も生まれて、小さいながらも楽しい我が家を築いています。 
 シリーズ当初は、この二人の仲も微妙で、危険な時期もありました。
 けれど、今ではしっかりと落ち着いた風に見えますし、気づいてみれば、、時代は流れたなぁと思います。そういう感慨を後押するのが、作中での、不破龍之進の成長です。シリーズの初期では、竜之進は幼名を龍之介といい、まだほんの子供でした。その子供が成長して塾に通い、初恋もし、失恋もし、見習いとして奉行所に出仕するようになり、、この巻ではいよいよ後輩まで出来ます。時間の流れは早いもんだなぁと思います。
 現代の目からすれば、まだまだ子供ですが、身長180センチほどもある龍之進は立派に一人の同心として動き始めています。不正を嫌い、それでも現実の前に苦しみ、タイトルの言挙げについて深く悩みます。まだまだやんちゃな子供だった彼がここまで成長したなぁと思うと、本当に作品内部の時間の流れが身に染みるし、それに引き比べると、自分の成長のなさに忸怩たるものが出てきたりもしてしまうのですが、時には時間の流れに身を委ねてみるのも悪いものでもありません。
 時間が解決するしかない事柄もあるし、時間が経つ事で固まって行く事もありますから。

我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話

我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話