「貴族グレイランサー 吸血鬼ハンター/アナザー」 菊地秀行著 感想
本年35冊目の紹介本です。
菊地秀行氏の代表作シリーズの一つ、ヴァンピールのDという剣士が活躍する「吸血鬼ハンターD」シリーズの外伝というかスピンオフ的作品です。過去作品で登場したグレイランサーという吸血鬼が主人公のお話です。
(ちなみにグレイランサーは「吸血鬼ハンター 悪夢村」登場です)
この吸血鬼ハンターシリーズでは、吸血鬼は人間を支配する「貴族」と呼ばれ、圧倒的な科学力と恐怖で地球を統治する存在として描かれていますが、その一方で、このシリーズにおいての吸血鬼は、OSB(外宇宙生命体)と呼ばれるエイリアンから地球を守るべく戦っている存在でもあります。
彼らは領民である人間を支配する代わりに、彼らも含めて自らの土地をエイリアンから守るべく戦っています。彼らは吸血鬼故に、心臓を白木の杭で貫かれなければ、或いは日の光を浴びなければ滅ぶことはありません。エイリアンがどれほどの攻撃をしかけてきても、原子すら残さないほどの攻撃兵器でもって攻めてきても倒れることはありません。しかし、敵のエイリアンも彼らにひけを取らない科学力と特殊能力で月の裏側に巨大前戦基地を作るまでになっており、戦争は既に三千年も続けられています。
そういう世界において、このグレイランサーという貴族がどういう生き方をするのか、どういう戦い方をするのか、Dと違って完全なる吸血鬼としてどう振る舞うのか、そして、それがヒロイックファンタジーとしてどう成立するのかがこの物語の読みどころだと思うのですが、結果からいえばこれは大成功といえる仕上がりを見せています。
最近の菊地秀行作品は、盛り上がりが薄いし、作品全体のテンションも低く、どこか過去の作品をなぞっているだけのようなところがあって、昔ほどのパワーがなかったのですが、この作品はひさびさに菊地秀行氏本人も楽しんで書いていて、筆がのってのって仕方がないというような感じさえ伝わってきて、ひさびさにこちらも楽しんで読めました。
願わくば、この勢いで他の作品をどんどん書いてもらいたいものです。
魔界都市の秋せつらのシリーズでもいいし、トレージャーハンターシリーズでもいいし、念法の工藤明彦シリーズでもいいし、どれでもいいのでこのテンションで次の作品を書いて欲しいです。
吸血鬼ハンター/アナザー 貴族グレイランサー (朝日ノベルズ)
- 作者: 菊地秀行,小島文美
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/01/20
- メディア: 単行本
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