小説・漫画好きの感想ブログ

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「世界でいちばん小さな三つ星料理店」奥田透著 感想 

 本年33冊目の紹介本です。 
 去年の夏頃でしょうか、kararaさんに教えてもらったNHKの番組で「ふたり」という番組がありました。その番組は、若くして世界のミシュランの三ツ星を取った料理人と、その兄弟子でライバルである料理人の一夏の密着取材番組でした。三ツ星を取ったほうが、銀座・小十の店主の奥田透(この本の著者です)、二つ星のほうが兄弟子で、六本木・龍吟という店の店主の山本征治がその二人です。二人は、どちらもが若くして和食の道を極めようと決意し、四国の青柳という店で修行をし、そこで知り合いになりました。
 どちらもが寸暇の時間を惜しんで、自分の信じる和食の道を極め、後世に残そうと努めており画面から見る限りでもその情熱と料理の完成度は凄まじいものがあり、こういう料理人が選ばれるのなら、ミシュランの星というのもなかなか確かな部分もあるのだと思わせるに足るものでしたし、正直その二人のありようというのに感動しました。
 奥田は、王道の和食をどんどん突き詰めていくのですが、その裏には、兄弟子の山本の才能に自分がまったく届かない、彼だけは神に選ばれた本当の天才なのだと言います。簡単に盛りつけ一つとっても、センス一つとっても、自分はまったくそのレベルにたどり着けない。神様はその才能を僕には与えてくれなかったとインタビューで涙を流します。それほどのリスペクトを兄弟子の山本に向けています。
 そして、その山本は、毎年同じ料理は絶対に出さないと決めて、一つ一つの食材について、調理法について、これでいいのか、何故こうなのか、こうだったら駄目なのか、これのほうがいいのではないか、常識は間違っていないのか? と常に革新を求めます。そして、そうしなければ今までの日本料理の先輩たちに対して存在する価値がない、とそう言います。ある意味傲慢といえば傲慢なんですが、それほどの自負と、そういう台詞を言っていいほどの努力と才能と結果を出しています。
 その二人が、その番組では、ウナギをどう調理するのが一番いいのかということで、それぞれの答を出し合っていくのですが、その過程とその出来上がりの料理、二人のインタビューを見ているだけで、自分自身はなんていいかげんな仕事をしているのだろう、こういうライバルを作ってもっともっと自分を高めないと、、、そして、もっともっと美味しい食事を食べたいと切実に思う素晴らしい番組でした。
 
 この本は、その小十の店主・奥田透の人生がその番組を補完するような形で描かれています。番組では、ひたすら謙虚に見えた彼が、若いときには案外にやんちゃだったこと、人生を甘く見ていたことなど、店の経営に失敗して自殺しようとしたことも含めて、すべてが赤裸々に描かれています。料理人が本分ですから、文章がとりわけ流麗だったり、レトリックが緻密だったりするわけではありませんが、読んでいて等身大の、でもそれだからこそ、ストレートに気持ちが伝わってくる本でした。
 もちろん、この感動はさきにその料理番組を見たからそう感じている部分もあるのかも知れませんし、それがなかったら、わりと凡庸なという印象を受けたかも知れません。
 ただ、これを読んで感じたのは、これだけの真摯な姿勢で作っているのだから、今年もこの人の店の料理は圧倒的に美味しいんだろうという確信です。残念なことに関西の人間なんですぐに食べにいくというのは難しいですし、去年も何度か予約が取れなくて断念したのですが、今年は何がどうあってもこの店で食事したいと思いましたし、もし、この文章を読んで食べにいけた幸運な人がいたら、是非ともその感想をお聞かせいいただきたいです。
 きっと、幸せな時間を過ごされることと思います。
 (勿論のこと、龍吟にも行きたいし、感想を聞きたいです。こちらも素晴らしそうです)

世界でいちばん小さな三つ星料理店

世界でいちばん小さな三つ星料理店

こちらが小十

銀座 小十

食べログ 銀座 小十

こちらが龍吟
龍吟

食べログ 龍吟

 追記;アップ後に、銀座・小十の実食レポートを読んでみると、案外辛口というか評価が低いとこが多いんでちょっと驚いています。