小説・漫画好きの感想ブログ

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「折れた竜骨」 米澤穂信著 感想 

 本年25冊目の紹介本です。 
 ひたすら本紹介がたまっていっていますが、仕事が一段落するまではちょっと紹介ペースが落ちていきそうでございます。
 なんつーか、とにかく忙しいのです。
 さて。

 「折れた竜骨」米澤穂信さんのミステリ作品です。
 といっても、いわゆる通常のミステリではなくて、剣と魔法が存在する架空の中世イングランドが舞台のミステリです。普段の米澤さんのフィールドではないし、剣と魔法の世界で推理小説が成立するのかと心配になるむきもおありかと思いますが、これが実に見事にきちんとミステリしております。
 不死に近い肉体をもち、何百年も生きることが出来る呪われたデーン人(デンマークバイキング)に、十字軍の遠征地のペルシアから流れてくる魔法使いに、ギリシア時代の遺物のゴーレムを操るものなど、不可思議な魔法的存在と通常の人間が共存する世界の端っこにある島、ソロン。その領主ローレント・エイルウィンとその娘アミーナ・エイルウィンのもとに現れた聖アンプロジウス病院兄弟騎士団の騎士ファルク・フィッツジョンは、領主の命が狙われていると告げた。
 彼ら兄弟騎士団の不倶戴天の敵であり、暗殺を生業とし、魔術さえも操る暗殺騎士がローレントの命を狙っているのだとファルクは言うのだった。おりしも、復活したデーン人がソロンに攻めてくるという噂があり、ソロンの島には傭兵達が集まってきていた。彼らの中に暗殺騎士の走狗がいるのではと考えたファルクは警戒の目を彼らにも向けたが、悪いことにその夜のうちにローレントは暗殺されてしまう。
 かくして、ファルクとその従者ニコラ、そして領主の一人娘であるアミーナは、父を殺した犯人捜しを始めるが、果たしてうまく犯人は見つけられるのか。。。。
 
 というようなお話なんですが、結論からいうと冒頭で述べたように、これが実に面白く、かつまたミステリとしてもきちんと成立しております。魔法が存在するような世界で、きちんとミステリとして成立するのかとご心配のむきもあろうかと思いますが、巧妙な伏線や、精密なプロットのおかげで作品として見事に成立しております。
 著者ご本人もあとがきで触れておられますが、よく考えてみれば、こういう特殊な世界を舞台にした作品というのはいくつかあります。例えば、西澤保彦氏の「七回死んだ男」は主人公が同じ時間を何回も体験するタイムループの中での作品でしたし、山口雅也氏の「生ける屍の死」という作品は、一定の確率で死体が生き返ってしまう(つまりは殺人者は被害者に顔を見られたら即犯行がばれてしまう)という世界でのミステリ作品でしたが、どちらも傑作でした。
 そして、この「折れた竜骨」はそれらの作品に勝るとも劣らない作品です。確かに最後の謎解きのあたりは、新本格推理のバズラー的な要素が多くてちょっと説明に傾きすぎるきらいがありますが、それを除けば、剣と魔法の世界の話としても面白く、かつまた同時にミステリとしても面白いという作品に仕上がっております。
 なので、日常の謎系ミステリに飽きてしまった、現代を舞台にしたミステリに飽きてしまったという方には是非お勧めしたいと思います。

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

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