ヴィンランド・サガ9巻 幸村誠著 感想
本年19冊目の紹介本です。
デンマークのバイキングの少年が主人公の成長物語です。しばらく放置していたのですが、ふとしたきっかけで再び読み始めることにしました。
この物語の主人公のトルフィンという少年は、1巻冒頭ではアイスランドで家族と仲良く暮らす一人の平凡な少年でした。しかし、ある日、海を越えてやってきたアシェラッド率いる兵団に父親を殺され、そこで自分が実は彼らと同じデンマークのバイキングの血を引く者だということを知ります。そしてトルフィンの父であるトールは、彼らの中でもずば抜けた戦士だったことを知ります。トルフィンは、捕らえられたまま、半ば奴隷のような状態でアシェラッド兵団で暮らし、戦で武功を立てては、父の仇のアシュラッドに決闘を挑んでは破れ続ける毎日を送っていきます。強くなっても強くなってもアシェラッドには敵わなかったのです。
そんな彼らは、ある日イングランド内紛に、デーン王スヴェン一世がよこした狂戦士フローキ率いるトルケル兵団とともに参加する。その過程で裏切りが繰り返され、アシェラッド兵団は壊滅、アシェラッドも紆余曲折の上で、トルフィンの前で斬り殺され、彼自身もイングランドのクヌート王子に斬りかかり、捕縛されてしまいます。一巻から長くひっぱっていた、父の仇のアシェラッドへの仇討ちというテーマは道半ばにして潰え、本人もまた新しい運命に翻弄されることになります。
それから数年。
再び始まった<奴隷篇>では、主人公のトルフィンは本物の奴隷になっていました。かつての戦士としての面構えや殺気はどこかへ失せ、自らが戦いを繰り返したことさえ忘れたように片田舎の農奴としてひたすら毎日の開墾作業の日々を送っていました。しかし、そこに新たに買われてきた奴隷がやってきた時、その奴隷が面白半分に殺されそうになった時、トルフィンの中でまた何かが生まれ始めました。。。。
というようなのが、再び読み始めたヴィンラインド・サガのあらすじと展開です。
1巻から8巻までが、なんというかひたすら長いプロローグだったというような展開に、正直ちょっと戸惑う部分がかなりあります。ありますが、ここまでずっと感情移入しずらい可愛げも熱さもない魅力に乏しかった主人公が新しい人格と魅力を獲得するにはこれしかなかったというような気もします。もし、この奴隷篇が上手く運べば、ここまでの長いバイキング時代の戦いが全て意味のある、むしろここまで厚いバックボーンはないものとして生きてくるだろし、もしそれが幸村さんの思惑・計算であったなら、それはとてつもない実験だと感嘆するよりありません。
ある意味、ここまで長いプロローグからの変調というと、三浦健太郎の「ベルセルク」くらいしか思い浮かびません。あれも、この世界の惨めさや苦しさ、無慈悲な部分を長く長く書いたあとにいきなり変転していきましたが、あれに近いものがあります。安定した画力の作家さんですし、これも物語の行き着く先がとても楽しみな漫画です。
- 作者: 幸村誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/06/23
- メディア: コミック
- 購入: 19人 クリック: 294回
- この商品を含むブログ (84件) を見る