小説・漫画好きの感想ブログ

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「御宿かわせみ17 雨月」平岩弓枝著 感想 

 本年16冊目の紹介本です。
 御宿かわせみシリーズの17巻です。いつにもまして、哀切のある連作短編で御宿かわせみの時間はすすんでゆきます。小さな頃に火事にあって、家と両親を失った異母兄弟が生き別れになって数十年後の奇妙な際会を描いた表題作の「雨月」。不憫な身の上になって子守の仕事をしている少女が疑われた赤ん坊の行方不明事件の意外な結末を描いた「伊勢屋の子守」。数十年前に浮気をしたまま女と駆け落ちした初老の男が、捨ててきた子供と孫の様子を知るために江戸に出てきた「梅の咲く日」。いずれも、悲しいお話です。
 平岩弓枝さんが描くこの「御宿かわせみ」の世界においては、ささいなきっかけや、小さい頃の不幸から道を踏み外す人があまりにたくさん出てきます。正業から少し逸れてしまえば、犯罪者になってしまう者があまりに多いというのは、ある意味リアルなのかも知れないけれど、ある意味生い立ちの不幸がイコール犯罪と結びつくというイメージは現実世界でもそうだけれどなんとか払拭したい話ではあり、少し悩ましいところです。
 平岩さんがそういうイメージを助長させようという意図はないのはわかりますが、最近のリアル世界の法廷を見ても、被告は小さい頃のおいたちが不幸で・・みたいなことで情状酌量を狙うのが常套手段になっています。確かに情状酌量すべき要件なのかも知れませんが、それを言えば言うほど、逆に犯罪を犯していないけれどそういう境遇だった人が犯罪者予備軍に近い存在だというような認識が固定化しそうで、少なくとも裕福で恵まれた家庭の人よりは犯罪の可能性が高いというイメージが定着するよう気がしてちょっとひっかかるのです。
 被害妄想なのかも知れませんが、少しそのことが気になりました。
 逆に、法に触れることはしているのだけれど、少し胸が熱くなったのが「矢大臣殺し」という作品。これは、乱暴者で、人を人とも思わない、鼻つまみ者の男が殺された事件を描いた話なんですが、その男が殺された時にはたくさんの人がまわりにいたけれど誰もが犯人を見ていないと証言するというお話。もちろん、いくら鼻つまみ者だとはいえ、人一人が殺されているので捜査は開始されますが、容疑者を絞り込むどころか、調べれば調べるほどその殺された男の強姦やら殺人が浮かんでくるばかりで、しかも死体からは刺し傷や毒薬など死因が特定できないあれこれが見つかります。
 解決に乗り出した東吾はある時点で事件の真相を気づきますが、その真実とは、、。江戸時代の話とはいえ法律的にはまずい解決ですが、なかなか胸が熱くなる話でした。現代ミステリでも同じような話はしばしばありますが、出てくる人々が完全に弱者で虐げられたりしていた人々であるところで胸が熱くなりました。