小説・漫画好きの感想ブログ

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「最後の音楽」 イアン・ランキン著 感想 

 本年13冊目の紹介本です。
 イアン・ランキン氏が描く、エジンバラを舞台にしたジョン・リーバス警部シリーズの最終刊、最後の事件です。今作で、リーバスは定年を迎え、刑事を退職します。今までがそうであったように、誰もが嫌がる、上流階級の人々が事を荒立てないようにしようという事件を、彼はキャリアを気にせずにとことん追いかけます。今回の事件では、ロシアからの亡命詩人が殺されたことに端を発する事件を解決するため、スコットランド独立のために動く国会議員をつけまわし、国内最大手の銀行の頭取や上級幹部の秘密を探り、ロシアからやってきた財界エリートたちの不興を買い続けます。誰もが、彼らを巻き込むなと圧力をかけますが、彼は事件の真実を暴くためにトコトン捜査を続けます。
 ロシア人の詩人は何故殺されたのか?
彼が事件の夜に最後に寄ったバーにいた、ロシア人エリートや暗黒街の人間たちは事件に関係していないのか? それとも、彼は何かを知ったために殺されたのか?
 調べれば調べるほどさまざまな要素が出てきて、どれが本筋かわからなくなってきますし、疑い出せば誰もがあやしく見えてきます。
 警察小説でもあるこのシリーズは、その事件解決の過程で警察上層部が事件に介入してくるところまでしっかり描かれます。上層部はこの事件を単なる通りすがりの犯行にしたがっています。しかし、それを信じないリーバス達は各所を怒らせながら、ときには捜査チームの中でも意見の対立をさせながら、しゃにむに捜査します。普段の捜査と違って、リーバスが一週間足らずで退職することが確定しているがために、余計に捜査チームは混乱します。彼の愛弟子ともいえるシボーンは、彼が抜けたあとどうやってチームを作っていくのか。どういう方針をとるのか。また部下の誰を自分の後任に昇進させるのか。そういう捜査と関係ない要素も入り込んできます。それもあって、彼女はたまたま殺害現場にいた優秀そうな巡査であるトッド・グッドイアをスカウトしてチームにいれます。しかし、このグッドイアの祖父は、かつてリーバスが刑務所に放り込んでその後に刑務所で獄死した人物でした。グッドイアはそれを気にしていないように見えますが、彼の兄はリーバスのライバルともいえる暗黒街のボスのカファティと繋がりがあることも分かってきます。
 一体どの道筋が本当の殺人事件解決への道なのか。
 リーバスは最後の事件をどう解決するのか。読み応えたっぷりの最終巻でした。
 
 タバコをどんどん吸って、酒もガンガン飲んで、ルールなんて全く無視して、お偉方の意向なんて無視して、自分の流儀で自分のやり方で、たまには脅しや脱法行為をしても事件を解決に向かわせるリーバス。一昔前のスタイルの刑事である彼は、自分自身でもそれを自覚していて、彼は犯罪捜査にのめり込むあまりに家族も失っていますし、引退したあと自分には何が残るのかとも作中で悩みます。毎晩、音楽を聴いて(作中ではロックが大好きなリーバスは色々な音楽をひたすら聴いていますし、出てきます)、酒を飲んでそれだけで生きていけるのか。と彼は切実に悩みます。アイデンティティ・クライシスがかなり揺らいでいるリーバス。このシリーズ作品を読み出してからまだ数年しかたっていないため、自分の中ではリーバスの年齢ってまだまだ50手前のエネルギッシュな男性だったのですが、、もう定年。自分もいつの間にか、まだまだ若くて最前線で動いているつもりでも、はっと気づくと最後の日を迎えているのかと思うとちょっと寂しい気分になりながら読んでしまいました。
 短編集とかでまだ日本では出ていないのもあるようですから、あとはそういうのをちょこちょこと追っかけてみたいと思います。
 イアン・ランキンものをまだ読んでいないのであれば、「紐と十字架」を是非読んでみて下さい。

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)