小説・漫画好きの感想ブログ

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「ひやめし冬馬-四季綴-ふくら雀-」 米村圭伍著 感想

 「桜小町―ひやめし冬馬四季綴」の続編です。
 前回の「桜小町」が、米村圭伍作品にしては珍しく、登場人物が全員腹黒い、腹黒いといって悪ければ妙に計算高い打算的なところが多く見える作品だったわけですが、、、その路線は本作にも踏襲されています。
 ざっと前作のおさらいをいたしますと、主人公の冬馬は、俗にいう冷や飯喰らい。下士の次男坊ということで、出世の可能性もなく小遣い稼ぎに鳥を捕まえることを楽しみにしている男です。彼は、藩の権力を二分する奥田家のご令嬢に懸想するものの、当然そこにお近づきになるチャンスはそうはない筈だったのですが、ひょんなことから、その奥田家の当主と藩のもう一人の実力者の陰謀を知り、その陰謀を止めるために結果的に実力者二人を斬り殺すことになってしまいます。また、その過程で竹馬の友とも思っていた男とも争い命を落とさせることになります。そして、そのいずれもが打算の上での話でした。
 で、そこからしばらく後の話が本作です。その父親を殺したことは黙って、むしろその名誉を守った人物として奥田家の娘の文乃と交際を始めた冬馬でしたが、娘が結婚を強く望むようになるとはたと困ります。なんせ昔は中士だったものの、今では下士となってしまった家の次男坊では、おんぶ日傘できたお嬢様に満足な生活を与えられないことは決まっていますし、心のどこかで父親を殺したことがいつばれないかという懊悩もありでなかなか踏ん切りがつきません。
 そんなおり、藩の上士から下士までが、いきなり雀を捕まえはじめます。
 雀を捕まえるなんてことは冬馬のような身分だからこそ小遣い稼ぎになるはずのもので、全員がそんなことをする意味はありません。首をひねる冬馬に、父親の上司の息子や、実の母親、そして恋人からもふとった雀を捕まえるようにという強い要求がつきつけられます。実は、藩主の娘の婚礼にそれが必要だというのです。そして、その婚礼のために一番太った「ふくら雀」を捕まえたものには立身出世のチャンスまで現れるというのです。
 勇躍、冬馬は雀をつかまえるべく動き出しますが、そこに現れたのは恋人の文乃の元許嫁の新之介。彼は、本当に文乃を幸せにできるのは自分しかないと登場します。
 かくて、不思議な三角関係の中で調子を狂わされながらも雀取りに邁進する冬馬。
 果たして、ふくら雀を無事捕まえることができるのか。。。
 
 てな話なんですが、今回もまた登場人物の多くが打算的だしいろいろ考えすぎるしもう性格がめんどくさいやつらばっかりで、米村さんの持ち味だった、あっけらかんとした、のほほんとした、どこかとぼけた味わいが薄れちゃっているのが残念な仕上がりです。どうしたんでしょうかねぇ。最近の米村さんはちょっと鬱屈とした考え方がややこしいキャラが多いです。
 ただ、それ以上にこの作品はちょっと大きな欠陥? があります。
 この欠陥を書いてしまうと読む人がいなくなってしまうのではないかというほどの欠陥なんですが、それはラストに至るまで気がつきません。でも、ラストまで読むと、たぶん皆さんも僕同様に「これは一体どういうこと? 」「え?」「何? 」「やり直しを要求する」というような心持ちになると思います。いや、これはないですよ、米村先生という感じです。
 なので、あえてお勧めしません。

ひやめし冬馬 四季綴 ふくら雀 (徳間文庫)

ひやめし冬馬 四季綴 ふくら雀 (徳間文庫)