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「舞い降りた天皇(上) 初代天皇「X」は、どこから来たのか」 加治将一著 感想

 ひさびさに古代歴史の本です。
 小説という体裁で、古代史の謎に迫っていくというシリーズで、初代天皇とは一体何者であったのか。出雲の神々はどうして日陰者になってしまったのか、邪馬台国は一体どこにあったのか? 奈良の箸墓古墳に眠るのは本当は誰なのか? 天皇家にまつわる秘密、君が代に込められたの真意とは??
というような本なんですが、なんせ、古代史です。日本の古代史です。神話とねつ造と書き換えが頻繁におきる時代の話で、いろいろな考古学者、歴史学者がお互いの主張を譲らず結論の出ていない時代の話です。邪馬台国一つとっても、北九州にあったのか近畿にあったのかでずっと論争が続いていて決定打が出ていない時代の話です眉唾をもって読まなければいけない本ではあります。
 でも、この本、自分の勉強不足がたたって、どこまでが推論でどこまでがはったりでどこからが妄想なのかを断定できないという所はあるものの、読み物として読むと極めて面白いです。
 また、今まで歴史上気にはなっていたけれど、どうしてその原因がわからなったことに、加治さんなりの目から鱗の解答が掲載されていて、かなりワクワクドキドキ読ませていただきました。
 例えば、「古事記」と「日本書紀」は同じ時代に同じ天皇が指示して作らせた、日本の正式な歴史書なのにどうしてこうも内容に食い違いがあるのか。神様の名前や人の名前に読み替えが多いのかということに、彼は作中でこう答えます。日本書紀は支配階層、ひいては中国とのつきあいの上で提出しなければならないものだったが為に、漢文で自分たちの出自・来歴をしっかりと記さなければならないものであった。翻って、古事記は土着の豪族や渡来系の豪族たちを取り込むためのプロパガンダの書であったから、豪族たちを神として取り入れ基盤強化のために作った民衆向けの支配強化ツールだった、と。
 なるほど確かにそう読めば、これらのことはすっきりと納得されます。
 またそういう文脈でいうと、国津神天津神というのも、要は渡来人系の人々の勢力を指し、彼らがどこからやってきたのか、どういう順序で日本を支配していったのかという事を暗に物語ってくれる貴重な資料である、と。作品内部では、神話に出てくる神様とそれぞれの本当の正体、どういう経緯で渡ってきて、どういう流れでそれらが一つの帝國を築いていったかを描いていきます。
 そして、その中で、邪馬台国とは本当にどこにあったものなのか。
 天皇というのはどういう経緯で作り上げられたシステムなのかということが語られていきます。
 既に研究成果として認知されている、本当は天皇家は韓国や中国大陸からの渡来人であるというようなことだけでなく、そこから一歩掘り下げて、どういう成り立ちで天皇家ができあがっていったのか、イワナガヒメとサクャコノハナヒメの名前と来歴の影に何が本当はあったのか、などということも仮説として語られています。
 妄想半分、小説的なノリが半分としてもなかなかに面白かったです。
 歴史に詳しい人、このあたりに興味をもっている方は一度読んでみると面白いと思いますよ。
 邪馬台国はどこにあったのか、は、意外な結論ですがひょっとしたらこれが正解かもと思わせる勢いがあります。

舞い降りた天皇(上) 初代天皇「X」は、どこから来たのか (祥伝社文庫)

舞い降りた天皇(上) 初代天皇「X」は、どこから来たのか (祥伝社文庫)