「三国志」5巻・6巻 宮城谷昌光著 感想
宮城谷三国志、文庫になって読み直し。
あいかわらずというか、この三国志における宮城谷さんの持ち味なんでしょうけれど、展開が早い割には個々の場面場面での物語的な盛り上がりが非常に薄いです。本当にもうたんたんと、よく言えば冷静なマルチ視点でのタッチで、悪く言えば学校の歴史の授業のように話が進んでいってしまいます。
一応時系列というか大きなトピックでいうと、曹操が天子を奉戴。袁紹が公孫瓉を攻略。袁紹と曹操が激突。孫策の死。孫権の台頭。劉備への曹操暗殺命令。劉備と諸葛亮孔明との出会い、三顧の礼。赤壁の戦い。曹操の撤退。とわずか2巻にはかなり物語が進んでいきますが、、、見事にキャラクター一人一人のドラマ性が削ぎ取られています。
三国志演義や、北方三国志版を読んでいる人からすると、あれ? このエピソードはというのが案外にあっさりと削られていて一言も触れられていません。
例えば、超雲子龍と劉備の出会いのやり取り、劉備と献帝のやり取り、赤壁の戦い前の魯粛と孔明vs孫権家臣たちの舌戦、周瑜と孔明の火計にむけての策を手に書いてあてあうシーン、大喬と小喬の二喬の話、劉備が髀肉の嘆をかこつシーン、劉備と劉掎の接触、祭冒の陰謀、劉備と白馬の崖越え、超雲の一騎駈け、長坂橋での張飛の殿での大活躍、逃げる曹操の行く手に何度も現れる孔明、あえて曹操を見逃す関羽。孔明が赤壁の戦いで壇を築いて祈るシーン。エトセトラエトセトラ。
三国志ファンでなくても、なんとなく聞いたことのあるシーンがあるでしょう?
それらがすべてカットされています。
歴史的に正しくないか、誇張されている可能性のあるシーンはすべてカットで、その逆に、歴史書に名前が残っている人に関しては小さな事柄でも記述されています。このへんのアンバランスさ(と自分には思える)が宮城谷三国志にいまいちのめり込めないところです。せっかく、三国志なんだから、少しばかり史実中心でも、曹操中心でも構わないので、そういう有名シーンは注釈をつけてもいいから、うまく盛り上げていって欲しかったです。
とくに劉備ファンとしては、あまりにも劉備の扱いが悪いので、こういうシーンでもなければやっとれんです。はい。もっとも、この巻あたりまでくるとさすがの宮城谷先生も、最初の頃みたいに、劉備については「ごろつきで、人間としては質も悪い。美徳がない」と切って捨てるわけにもいかず、やっぱり嫌味はたらたらながら、何もかも捨てて捨てていくことで何かを得ているようだというような表現はしていますが、それでも英傑としての描かれ方ではないような気がします。どうにも宮城谷先生の頭の中の人物評価では、文才もなければ、典雅でもなく、学問もおさめず、隊の規律が緩く、だれだれなところのある劉備は評価が最低なのでしょうね。
劉備、一番とは言えないかもしれませんが、英雄だとは思うんですけれどねぇ。
- 作者: 宮城谷昌光
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