小説・漫画好きの感想ブログ

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「ローマ人の物語39 キリストの勝利(中)」 塩野七生著 

 今日はひさかたぶりに半日休暇で、昼から休みでお買い物に出ておりました。
 ひさかたぶりに食事でも作ろうかと思ってあれこれ買い物しましたが、男の料理ってたった一品ほど作るのにどうしてこうお金が高いのでしょう。お米が切れていたりでお米を買ったせいもあるのでしょうが、小一万かかるとちょっとぐったりです。
 さて。

 「ローマ人の物語」ももう終盤です。
 前巻では、大帝コンスタンティヌス、そしてそれを継いだコンスタンティウスによって、ローマ帝国が完全にキリスト教を実質の国教としていく様と、それによって帝国が完全に変容していく様が描かれました。
 それに対して、今回ではその後をついだユリアヌスが、まったく真逆にキリスト教に対して抵抗、ローマをかつての建国時代のような多神教の世界に戻そうとして短い統治期間に奮闘したのか、またその結果を描いています。
 結論からいえば、ユリアヌスの通り名が「背教者ユリアヌス」となっている通りに、その改革は完全に失敗し、その後を継いでいった皇帝達の手によって彼の名誉や統治、立法した法律のことごとくは覆されてしまうことになってしまいますので、本当に報われない一生を送ったなというのが正直な感想です。彼は青年といっていい年になるで地方に幽閉も同然の身で過ごしたために、たぶんに理想主義であり、人々の共存を願った皇帝であったようですが、キリスト教に敵対したがために、キリスト教徒たちやその既得権益者たちの手によって、徹底的なボイコットにもあい、サポートを受けられず、ついにはペルシアとの戦争中に味方のキリスト教勢力の手によって暗殺も同然の死を迎えることになります。
 親征先のチグリス・ユーフラテス近辺の戦闘中に、皇帝であるにも関わらずその鎧兜をあてがわれず、味方の槍の流れ槍(流れ矢というのもあれば槍であればこう表現するしかないのです)にあたって、死亡します。二年にも満たないような短い在位期間の間に作った法律はことごとくその死後に覆され、キリスト教徒によって「背教者」と侮蔑された名称まで送られた皇帝の末路を思うと、このアンチキリスト、アンチ一神教の皇帝の在位がもう少し長ければ世界史も大きく変わったのではないかと思わずにはいられません。
 神の名の下に、教会が絶大な権力と財力を蓄え、皇帝はその認証によってすべての罪から逃れられ人々を支配する権利を認められる「王権神授説」の統治システムがここで確立してしまったことが、のちのちの中世封建制度や、のちのちのイスラムへの十字軍遠征や魔女狩りといったひどい歴史を生み出し、現在のキリスト教圏対イスラム圏の衝突の禍根になっていることを思うと、歴史にイフはつきものですが、そのイフを考えないわけにはいきません。
 なかなかに興味深い一冊でした。

ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉 (新潮文庫)

ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉 (新潮文庫)