小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「事情のある国の切手ほど面白い」 内藤陽介著 感想

 これも、入院中に読んだ本ではないかな。出てきてからかな、ともあれ8月中に読んだ本。
 切手というと、僕らの小さい頃にも一度切手収集ブームがあったような気がします。「雁に月」とか「赤富士」とかあいうの渋好みの切手を小学生くらいの子供がしかめつらしい顔をして、あれがいいなとこれいいなと騒いだり、海外からの使用済み切手詰め合わせを見てそのカラフルさにわーわーと盛り上がったりしていたあれは、考えてみればあれはあれで楽しいものでした。
 さて。話を戻して、この本。
 「事情のある国の切手ほど面白い」はそういう一般的な切手収集の話ではなくて、切手というものがもつ文化的な側面をもつのか、どういう意図で国が切手を発売するのか、こんな面白い切手があるのだけれどこの切手の裏の意図は実は、、、というようなことを解説してくれる新書です。一つの切手がその国の事情を現しているんだという趣旨でたくさんの事例が示されます。
 例えば、ベルギーという国の切手シリーズの一つ「これがベルギーだ」には、ベルギーの代表的な食べ物が一枚に一個ずつ描かれており切手十枚がワンセットで発売されているのですが、、これが英語表記なんですね。何故か? 実はベルギーはオランダから独立した国なんですが、その内部でも北のオランダ語圏と南のフランス語圏で大きな格差や対立があって、一時はそれぞれがオランダとフランスに合併すればいいんではないかという無茶苦茶な話も現実味を帯びていたそうです。そういう背景があって、どちらかの言語で書くと問題がでるので、第三国の英語表記にしたのだそうで、、、なんとも凄い話です。実際に驚いたことにはそういう話が過去の話ではなく数年前の話だそうで、、日本ではそんな話題すら出なかったんじゃないかと思うんですが、、、どうでしょ?  一番皮肉なのは、そういう内部問題を抱えているベルギーのブリュッセルにECの本部があるということでしょうかね。
 また例えば、キューバは外貨獲得の手段として、世界で一番かっこいい革命家という評判のチェ・ゲバラの切手を刷ることで外貨の獲得に懸命です。よく見ますよね? ゲバラのマークの入ったTシャツとか。ああいうのを使って、キューバは共産主義経済をしながらも外貨獲得に頑張っています。こういう外貨獲得の為の切手というのも世界中で刷られているのですが、日本をターゲットにしたものもたくさんあり、何故か海外で南野陽子の切手が発売されたりもします。今、どこかのやり手のプロモーターがいたら、アジアかアフリカのどこかの国でAKB48の切手でも出せば、、、(48枚セットにしてもいいし、それぞれの人数分出してもいいし、ユニットごとにやれば無限のレパートリーが増えますね)、、その切手を買うためにマニアは高いお金を出してでもそこの国の切手を買うのではなかろうかと思われたりもします。そこの国の親善大使も兼ねたりするとなんでもありの気がします。
 あとは、政治的なメッセージということでいえば、これは自民党政治の大失策でもあるのですが、韓国が日本領の「竹島」を「独島」としている例の島。あの島を韓国政府は、わが故郷シリーズの一枚として発行したのですが、、これに対して日本政府がまったく抗議しなかったことを受けて、韓国は大量に刷りました。そして、それが韓国国内に流通して国民の意識を変えるとともに、世界中に郵便物にくっついてばらまかれたことによって、世界の認識がじわじわと変えられつつあったりします。切手は、それ自体がプロパガンダになりうるのですが、そのことに対して日本は無頓着でありすぎるのかも知れません。
 というようなことで、この新書。
 なかなか面白く読めました。

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)