小説・漫画好きの感想ブログ

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「新世界」 柳広司著 感想

 これも入院中に読んだ本です。
 1945年8月、砂漠の町ロスアラモス。いわずと知れた、マンハッタン計画の行われた原爆開発の町で、核実験の成功と日本への原爆投下の成功、終戦をまとめて祝う祝賀パーティが盛大に催されていた。厳重な警備がなされ、部外者が立ち入れないそんな町の只中で一人の男が無残な撲殺死体として発見される。
 原子力爆弾の開発責任者であるオッペンハイマーは、友人の科学者イザドア・ラビにこの事件の調査を依頼する。イザドア・ラビはこれに先立つこと数ヶ月前に、FBIの手によってオッペンハイマーの精神のバランスを護るためにつれてこられた彼の唯一の友人だった。調査の中でラビが見ることになる事件の真相は?

 歴史のイフをたくみに使って小説を作り上げる柳さんの面目躍如のこの一冊ですが、、読んでいてものすごく疲れました。入院中だったという状況を考慮してみても、気持ちが悪かったです。原子力爆弾の作成というグロテスクな非人道的な計画はまぁ歴史的事実のことだからとスルーできるのですが、そこに集った人々の精神の中に垣間見える歪みと、殺人事件とのかかわりがかなり気持ち悪かったです。読後感的にはあまり後味がよくない作品かと思います。
 これは、どうしても被爆した敗戦国の国民という目線がこちらにあるからということも影響しているとは思いますが、それにも増して、今作っているものが大量破壊兵器でありそれによって無差別に一般市民が死ぬとわかっていても大して精神に影響を受けない人々がいて、現在もそれは続いてるという事実をどうしても直視せざるを得ないことのほうが大きいのでしょう。アメリカのみではなく、西欧諸国やロシア、中国、最近では北朝鮮までもがそうした軍需産業にかなりの人口を割いています。徐々に戦争がなくてはならない、ではなくて、戦争を起こさなければ世界はまわらないという既成事実ができていき、それに対してやましさすらなくなっていく社会の怖さがこの本にはあります。
 ということで、ミステリ小説のはずなんですけれど、時期、タイミングのせいでヘビーな読後感を残した一冊です。

新世界 (角川文庫)

新世界 (角川文庫)