小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「おそろし 三島屋変調百物語事始」 宮部みゆき著

 これも入院中に読んだ本です。
 今年の幕開け本が同じ宮部みゆきさんの「狐宿の人」という、甲斐耀蔵と四国の丸亀藩を舞台にした歴史作品でしたし、なんだか今年読む宮部本は歴史物が多いです。宮部作品はドキドキが続く「レベル7」とかファイアスターターの女性を主人公にした「クロスファイア」(そういや、これの映画化では主人公が矢田亜希子さんでしたね。元旦那の押尾学さんは無罪主張とか言ってますが、、、はやく女優さんとして復活してくださいね。応援しております)とかも面白いのですが、歴史ものもなかなか読ませます。
 さて。この作品は、サブタイトル通りの一風かわった百物語です。
 おちかという十七歳の娘が主人公で、彼女は三島屋という袋屋さんで女衆として働いています。おちかは、もともとが三島屋とは親戚筋にあたる田舎の旅籠の自慢の娘だったのですが、ちょっとわけありの事件にまきこまれて、江戸へ出てきて女衆となっています。そのわけありの事件のせいで、おちかはまだ若く美しい女性ながら、自分が幸せになってはいけない、そんな権利はないとひたむきに仕事に打ち込んでいます。そんなおりもおり、三島屋への来客の対応をしていたおちかは、その客が異常に曼珠沙華を怖がる場面に出くわし、話の流れでその由来を聞くことになりました。おちかからすればそのお客の話は自分とは無縁の話であったのですが、その会話をしおにおちかの心が少し溶け出したのを感じた三島屋主人の伊兵衛は、三島屋に「不思議な話」をもった客を一人、また一人と集め、おちかに彼らの「百物語」を語らせることにしたのでした。。。
 というようなあらすじで始まる百物語ですが、人情話のあれこれにおちかの心がほぐれていくさまはまさに名人芸。宮部みゆきという小説職人の腕の冴えが見えます。ちょっとしたことを救い上げて、一つ一つの奇妙な物語がきっちりと出来上がっていきます。そして、それらの物語が最後には一つの物語になっていくのも見事なものです。
 ただ。
 ただ惜しむらくを言えば、最後の最後のお話の最後にでてきた「それ」がちょっとあいまいで、強引に物語にオチをつけたように感じられるのだけが残念。それさえなければ100%の作品だったかと思います。この物語の中でおちかは、とてもいい子であるんですけれど、そのいい子であることもきちんと作者が否定して駄目だしして、それで成長させていくのがとてもいいです。

おそろし (新人物ノベルス)

おそろし (新人物ノベルス)