「天才 柳沢教授の生活29巻」 山下和美著 感想
ちょっとへんてこながら、人間観察を愛してやまない大学教授 柳沢良則。
その日常を描く長期連載作品の最新刊です。
今回は、胸を打たれるエピソードがてんこ盛りで、ますます柳沢教授が好きになりました。
たとえば、巻頭の一話。孫のクラスメートで学校や父兄からは嘘つきと眉をひそめられ嫌われている少年に、周囲の反対を押し切って接触。もし嘘をついているのならば、それには必ずそうしなければならないのだと律儀に観察・会話を続け、ついには少年が嘘をついていなかったこと、嘘と思われていたことのほとんどが、周囲の体裁や思い込みと逆に周囲の嘘だったことを証明する。直接証明するのは、少年が主張してやまない『太陽が二つあるのを見たことがある』という点だけなんですが、そのことで少年のかたくなな心が解けていくさまがとても感動的です。
最後の話の、まだ幼かった頃に教授が母親と死別したときのことを回想する話も秀逸。ありのままをありのままに、現実的に見て話す少年期の教授に、周囲の大人や親戚・兄弟たちまでもが冷たいと責めるのですが、彼にしてみれば素直に思っていることを話しているだけ。でもそんな教授が亡き母が眠る部屋へ二人で取り残されたときに取るエピソードがとても感動的。
うちは両親ともに最後のお別れができなかったから余計にちょっとぐっと来たのかも知れないけれど、いい話でした。
書いてて思ったんだけれど、自己分析してみると、自分の好みは「まわりに理解されない人間が信じてもらって愛情を強く表に出す」話がすきなのかも知れません。ずいぶんウェットですが、そういう心理があるのかも知れませんね。
- 作者: 山下和美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/08/23
- メディア: コミック
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