「西巷説百物語」京極夏彦著 感想
病院でゆっくりと読んだ本です。
基本的にはハードカバーの本は殆ど読まないのですが、療養の機会で、ゆっくり読書が出来るということと、最近、京極さんのいい意味でのヒット作がなかなかなかったので(京極堂シリーズがここのところ下降気味だし、「死ねばいいのに」はちょっと、、、だったので)読んでみました。最近は「ゲゲゲの女房」で水木しげる先生がリスペクトされたりしているものの、京極んさんの方は下手したら、このまま消えてしまうんじゃないのかなぁなんてちょっと不吉なことを思うくらいヒットがないような気がしていたので心配していたので、珍しくハードカバーで読みました。
一読。京極夏彦さんの文学的才能に改めて脱帽しました。
僕の懸念などは杞憂以外のなにものでもありませんでした。
とにかく、文章が上手いんです。
台詞と地の文が一体化していて、ぐいぐいと引き込まれていくのです。作品全体を通しての主人公は林蔵という人物で、「巷説百物語」のほうの主人公の又市の友人という位置づけの人物なんですが、この林蔵と各作品の登場人物との会話と文章の間がものすごくいいんです。なので、ここで止めよう、続きはまたあとで読もう、と思っていてもついついそのまま次の一作、また一作とずるずると短編を一気に読み進めてしまいました。読んでいて「ほぅ」とため息をついてしまうような巧い文章にのせられて一気でした。よく出来た落語と同じで、台詞部分と時の分の説明がうまくかみ合っていて、するするすると頭の中に映像が浮かぶんです。これはもう巧いなぁと唸るしかありませんでした。
お話としては、「巷説百物語」と同じで、依頼を受けた仕事人たちが対象となる人物に仕掛けを施して、幽霊であったりあやかしであったり亡霊といったものがあたかもその場に現れたように錯覚させて、そのお話の対象者の過去の罪やトラウマを片付けていく話ということで「必殺仕事人」+「つき物落とし」です。勧善懲悪のものもあれば、ちょっとほろりとさせるような話もあり、人間の業の深さをこれでもかと思い知らされる話ありでバラエティに富んでいますが、基本はそれです。単純といえば単純な話だし、各話は短いのですが、胸の奥にぐっとくる感じが致します。人情話というのにぐっとくるなんて、われながら年かも知れませんが、この味わいはちょっと他にはないですね。
物語の舞台が江戸ではなくて、浪速であるというところに親近感を覚える部分もあるのかも知れませんが、今までの「巷説百物語」「後巷説百物語」「前巷説百物語」に負けずとも劣らない作品に仕上がっていると思います。
ファンならずとも迷わず買いの一冊です。
- 作者: 京極 夏彦
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/07/24
- メディア: 単行本
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追記:本当にあった怖い話 AKB48編より確実に怖いですよ