小説・漫画好きの感想ブログ

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「古道具 中野商店」 川上弘美著 感想

 川上弘美の恋愛小説。
 東京の片田舎の古道具屋にアルバイトとして勤める主人公の女の子は、普段からすっぴんであんまりお化粧もしなくてなんとなく日常を過ごす毎日。
 店主の中野さんは、だめ男なんだけれど、何故か美人の愛人をとっかえひっかえしている初老の男。店に時々やってくる、その姉のマサヨさんがアーティストながらしっかりしているのと比べると対照的。あとの登場人物としては、主人公と恋だかそうでないんだか微妙な関係になっていくタケオという青年。この小さな4人ばかりのまとまりで中野商店という古道具屋は運営され、小説では、その中でそれぞれにそれぞれの恋愛模様が描かれていきます。
 ただそれぞれの恋愛模様は、それぞれ結構ハードな部分があるにも関わらず、それなのに川上テイストともいうべきふわふわとした感じで実体や生々しさのようなものを感じさせません。なんでしょうね。多少ネタバレになってしまいますが、死別だったり離別だったり、性的なさまざまな問題が出てきたりもします。なのに、生々しくないんですよね、何故か。「ニシノユキヒコの冒険」もそうだったんですが、どこか淡いというか、非現実的というか、恋愛には嫌でもついてくる妄執というか執念じみたものがそこにあるはずなのに感じずらいです。同作者の「真鶴」などでは、それがあまりに生々しくて呼んでいる途中に肩越しに怨念がへばりついているように感じたくらいですから、そういうのが書けないのではなくて、あえて書かないところに何かこの作品のポリシーがあるのでしょうね。
 ただ、だからこそなんですが、読後の印象というか読み応えがちょっと希薄です。
 こういう淡い感覚が好きだったり、読んでいるときの不思議とゆっくりとした時間の流れが好きな方だったらいいですけれど、それ以外の方にはあんまり恋愛小説としては勧めづらいかも知れません。「結局、何が言いたいの」とか言われそうです。個人的には嫌いなタイプの話ではないのですが、あんまり万人向けではないです。

古道具 中野商店 (新潮文庫)

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