小説・漫画好きの感想ブログ

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「インシテミル」米澤穂信著 感想

 インシテミル、、、、変換すれば「淫してみる」だそうだ。
 ただ、淫してみるという語感から想像される下ネタ関係のお話ではなくて、どっぷりとミステリに浸かった状態を指しているようで、淫するというのを「極度に耽溺する」という意味合いの方で使っているのがこの作品。
 米澤穂信ということで、しかも主人公が青年だということだから、読む前の事前情報段階では、きっと「春季限定いちごタルト事件」や「古典部シリーズ」のような甘酸っぱい部分も多いエンタメ系作品だと思っていたのだが、読んでみたらとんでもない。どちらかといえばミステリとしてはトリッキーではあるもののきちんと正統ミステリだし、後味の悪さということでいえば氏の代表作の一つともなっている「ボトルネック」や「犬はどこだ」ばりの読後感を与える作品で正直予想を大きく裏切られた。ただ、裏切られたからといって、作品の出来が悪かったかといえばそんなことはない。ケーキだと思っていたら、モツ煮込みが出てきたというだけで、中身に関しては悪くはない。
 クローズドサークルという、いわゆる限定空間の密室物(塔に閉じ込められるとか、島に閉じ込められるとかいうパターンのこと。別の言い方だと雪山の山荘ものとか絶海の孤島ものという言い方もあり)と銘打つだけあって、そこに集められた12人の人間は一人、また一人とお互いの疑心暗鬼の中で殺されていくし、その中での探偵合戦や騙し合いなどは読者への挑戦的なものもしっかりと混ぜてあって意外にフェアである。登場人物がある意味かきわりっぽいところも、メタ展開するところがあるのも、新本格の系譜としてみればそれこそ王道である。
 なので、変な固定観念を読まずに読んでみると、ミステリとして読んでみればなかなかいい出来ではないかと思う。
 ただ、後書き解説的なものにもあるように、ミステリファンならば楽しめるであろう趣向(たとえばノックスの十戒やら、そして誰もいなくなったのパロディ部分)も、ミステリをふまり読まない人にとってはどうかというのがちょっと気にはなるし、自分自身がミステリ読みなだけに客観評価がすでに出来ない状態であるのでここは本当にそれこそミステリをまったく読まない人の読後感や感想を聞いてみたいなと逆に思うところである。
 しかし、、、赤川次郎や西村京太郎は論外として、いまどきに森博嗣(新刊でないぞ)やら、東野圭吾米澤穂信、坂本司、北村薫、北森鴻(ご冥福をお祈りします)、A・エルキンズに、エルロイ、ハメット、チャンドラー、キング、バレッキーなどをほとんど読まずにいる本読みが果たしているのかというと疑問ではあるのだが、、、、。
 そんなわけで、ちょっと客観評価ができないがミステリ好きにも、そうでない人にも読んだ感想を逆に教えて欲しい一冊である。

 追伸、、、この作品、映画になるようだ。主演はデスノートといい何か壊れた役がよく似合う? 藤原竜也を筆頭に、綾瀬はるか石原さとみ、片平なぎさ 、北大路欽也、武田真治平山あやなどといった面々が並ぶけっこう豪華なキャストの模様。カイジといい、キラといい、壊れた役の多い藤原竜也がどんな演技をするのか、、、実は僕は苦手なので見る気になれないが、、、ファンならばそちらも楽しみか。

インシテミル (文春文庫)

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