小説・漫画好きの感想ブログ

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「共和国の戦士」スティーブン・L・ケント著   

 明日のイベント準備をなんだかんだしているともうこんな時間です。
 まま、それはさておき。

 「共和国の戦士」、ハードSFです。
 遠い未来。地球人類は、一種のワープ装置、転送装置を開発し、銀河のすみずみにまで到達し、いろいろな星をテラフォーミングして植民、地球政府を頂点とした巨大国家を作り上げていました。そして、その世界では、下級の兵隊はすべてクローン人間となっていました。
 支配階級/市民階級/戦士階級に別れた人類。支配階級や市民階級は、戦士階級の反乱をおそれ、下級の兵士のすべてをクローン人間におきかえ、地球の元アメリカ合衆国出身者を中心とした支配階級は上院としてすべての権限をもち、各惑星に住む人類の代表を一応は下院議員として迎えての二院性の政治体制を敷いています。
 つまりは、暗黙の身分階級がきっちりとできている体制ができあがっているというのがこの作品世界の設定です。そして、恐ろしいことには、このクローンたちは、彼ら自身がクローンであることを認識しないように処理されています。下級兵士たちがクローンであることは認識し彼らを嫌悪している自分自身がクローンであることは認識できないように、そしてもし真相に気がついた場合はその場で死ぬように遺伝子にブログラムを組み込んでいるのです(これはあくまで設定ですので、遺伝子にそんなことしても仕方ないだろうというか出来ないだろうという事はつっこまないで)。
 つまりは、弾丸や戦車と同じレベルで兵隊という人間が、自由に代替可能になっているわけで、このあたりは思考実験的な要素がかなり入り込んでいる挑戦的作品であるともいえます。
 あらすじとしては、そんな世界で生きる主人公のハリスの、軍人生活のスタートから最後までを追う中で、統合政府の陰謀や、さきほどのべたクローンが使い捨ての兵士として存在する世界で人間はどうなっていくのかといったことが思考実験的に展開されていきます。主人公は成績優秀で、力強く、戦闘能力に優れており、一般のクローン兵士より遥かに優秀ですが、それも実のところはとある別の理由があって、、そこにこの世界では禁忌とされているリベレーターという存在がかかわってきて、という風な感じでテンポよく物語は進んでいきます。
 ただ、結末が個人的な好みからいえば、中途半端。
 一平卒の物語であるから、妥当な着地点といえなくもないんだけれど、物語的にはもっと大きなイベントやら派手な見せ場をもって最後を飾ってくれたほうがもっと鮮烈なイメージが読み手に残ったのではという気がします。

 ところで、この作品は明らかに地球政府は現代アメリカ合衆国の比喩・アナロジーであり、彼らがとる日本人をはじめとする自分たちとは別の存在を理由をつけては殺したり政治的に抹殺していく行為や、軍事を通じて都合の悪いことをもみ消したり、軍事のためには民間人の犠牲もいとわない姿勢を、小説という形で問題提起しているようにも読めるのも興味深いところです。タイミングがタイミングだけに、とある惑星が、その成員の半分が日本人であることから、じぶんたち独自の文化を認めてほしい、日本語を公用語の一つにしたいといっただけで、惑星ごと戒厳令にしかれ、ひそかに上層部は消されて、星ごと消されかける姿は捕鯨問題で無理からたたかれ、経済的に排撃される日本を見ているようでなんだか気持ち悪かったりもしました。
 
 

共和国の戦士 (ハヤカワ文庫SF)

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