小説・漫画好きの感想ブログ

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「烏金」 西條奈加著 

 烏金という馴染みのない言葉。
 これは、江戸時代でいうところの借金の一形態です。今でも「十一」(といち)なんていう言葉があって、これはもぐりの金貸しが十日で一割の利息でお金を貸すことですが、江戸時代にはこれ以外にもいろいろな形態があって、節季払いなどといって季節ごとに返済をするものもあれば、年毎の支払いなどというものもありました。その中でも、烏金というのはかなり短期のものを指しており、朝に貸して夜に返してもらうという、超短期な金の貸し借りをいいます。おもに、棒手ふりだとかの人々が朝に仕入れ用のお金を借りて、夜に売り上げから返す、なんてことに使っていたようです。
 そんな金貸しの形態が作品タイトルにつくところからもわかるようにこの小説の主人公は金貸し業に精を出しています。といっても、もともとがそうなわけではなくて、小説の冒頭で、浅吉という主人公は、金貸しの因業ばばぁ「お吟」のもとへ言葉巧みに転がりこみ、そこから金貸しとしてあれこれ動き出します。しかし、何某かのたくらみをもって金貸しになったはずの浅吉の金貸し業は、いたってまっとう。というよりも、ただ貸すだけではなくて、今でいうところのビジネスコンサルタントや財政アドバイスなんかもやってあげて、返せなくならないように、むしろどんどん儲かるように手助けをするという良心的な手法。あまりにいいやり方すぎて、別の金貸しからも恨まれたり、横車を入れられたりするくらいのもの。
 果たして主人公は何の目的があってお吟のもとへ転がりこんだのか、またその狙いは?? 
 プロットの巧みさで、どんどん読ませる小説です。
 まぁ、あらすじの紹介はそれくらいにして、著者の西條さん。気づいてみれば「金春屋ゴメス」シリーズの著者さんなのでした。どうりで江戸時代のことなどを書いていても、どこか斬新だし、全編になにげにさわやかな雰囲気が漂っています。薄いし、さらりと読みやすい小説です。

烏金 (光文社時代小説文庫)

烏金 (光文社時代小説文庫)