小説・漫画好きの感想ブログ

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「東に名臣あり 家老列伝」 中村彰彦著 

 日本国内の古今東西の名臣、補佐殿の生涯を描いた短編を集めた短編集。
 小山田出羽守信茂、直江山城守兼継、後藤又兵衛基次、田中三郎兵衛玄宰、福原越後元たけ、河合継之助秋義がそれぞれ主人公となっています。この中で直江兼続はとにかくメジャーですが、あとの方はどうなんでしょうか。僕はあまり知らなかったので、へぇ〜そういう人がいたのか、という感じで素直に読みましたが、各地方の方にとっては地元の有名な方なのかも知れません。
 作品的には好きだったのは、タイトル作にもなっている田中三郎兵衛玄宰のお話が一番好きでした。この筆頭家老は、藩を建て直した中興の祖的な名名臣なのですが、若い頃から才能豊かだっただけでなく、藩の状態が悪いとみるや、徹底した立て直しのために職を辞して市井の人々の中におりてゆき、ありとあらゆる人と交わり、財政的な器機は勿論、教育問題、経済問題、しては藩の人々の体の小ささまでも解決してしまうという名宰相ぶりを発揮しています。どこぞの国の宰相にも見習わせたい人物です。こういうのを見ると、一人の人間が、たとえそれがトップの立場でなくても社会や組織を変えていけるものなのだなと自分の怠惰さを思い背筋が伸びます。
 宮城谷晶光さんの小説でもよくそうなりますが、歴史物などを読むとそういう効果があるようです。
 ただ、ただ小説として見た場合は、いまひとつ盛り上がりが薄く、この作品だけで評価してしまうのはアンフェアなのかも知れませんが、いまいちな人なのかなぁなどと思いました。誰かこの中村さんで良い作品があれば推薦してください。読んでみたいと思います。

 ウィキペディアなどを見ると、独特の立ち位置の作家さんのようだし、興味深いので、、、以下抜粋。 
 「私は史料が完璧に揃っている人物にはあまり興味を感じない。そのような人物を描くのであれば、別に小説というスタイルを採ることはない。史伝を書けばいいのだ」(「明治新選組」あとがき)というが、師を綱淵謙錠と仰ぎ、海音寺潮五郎からの系譜に繋がる。会津史研究を生涯のテーマに「紙碑」を次々と打ち立てる。
 特に、『徳川幕閣として4代将軍家綱を支え、パックス・トクガワーナ(徳川の平和)の礎を築いた会津藩保科正之の屈指の名君ぶりを世に知らしめた功績は大きい。日本史の伝記シリーズとして定評があり、「菊池寛賞」を受けた吉川弘文館人物叢書でさえ保科正之は扱っていない。会津藩は勤皇順逆史観において否定されるべき「悪役」であり、薩摩の重野安繹や肥前の久米邦武らの西南雄藩出身者が作った維新の修史事業(国史の編纂事業)から意図的に排除された。政治がポピュリズム大衆迎合主義)の様相を呈する現在、リーダーシップと責任感の問題を考えるためにも、保科正之のような知足の人から受ける感動は小さくない。

東に名臣あり―家老列伝 (文春文庫)

東に名臣あり―家老列伝 (文春文庫)