小説・漫画好きの感想ブログ

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「狂気という隣人―精神科医の現場報告」 岩波明著 

 珍しく、といってはあれですが、アマゾンのダイジェスト紹介が要を得ているのでちょっと引用します。
 
 人口の約1%が統合失調症という事実。しかし、それが我々に実感されることがないのはなぜか。殺人、傷害にかかわりながら、警察から逮捕もろくな保護もされず、病院さえたらい回しにされる触法精神障害者。治癒して退院したはずなのに、再び病院へ戻ってくる精神病患者。疲弊する医療関係者。社会の目から遮蔽されてきた精神医療の世界を現役の医師がその問題点とともに報告する。

 まさに、本書はそういう本です。
 巣鴨プリズンの直系の後継病院である「都立松沢病院」にも勤めていた臨床医の書いたルポルタージュだけに内容は圧巻。表側からだけではなかなかわかりづらい、精神病院の裏側、特に差別につながったり人権がからんだりでマスコミが取り上げづらい負の側面も描いています。ジャンキーや、アル中、錯乱患者、などと犯罪。精神病というものに対しての法のあまりの不備ぶり。警察の、精神疾患の疑いのあるものに対しての放置ぶりなどにも強く警鐘を鳴らしています。
 彼の言の通りであるならば、日本の警察は犯罪者が少しでも精神疾患の恐れがあるとなると、病院に受け渡した時点で逮捕はもちろん、取り調べもあまりしないし、疑いがあったけれども大丈夫であってももう捜査をしないという態度を取ることが多いようです。酔っぱらったり、暴れたり、錯乱しているものをそのまま放置して帰ることもしばしばだとか。
 自分などもかねがねその傾向については問題が多いと思っていましたが、現場の医師からもそういう声が高いのであれば法律を改正すべきではないかなと思います。一個人の感覚としては、犯罪を犯した人間には、それが精神疾患や錯乱があったにせよなかったにせよ、法のもとでの刑罰は受けるべきであると思いますし、そうでないと被害にあわれた方の感情の行き場がないし、それこそ不公平だと感じるからです。現行法では、罪を罪として認識できない精神状態であったり、心身喪失、心神耗弱であれば罪に問われない、もしくは著しく減刑されるのですがどうしても納得がいきがたいものがあります。
 特に、今現在では、統合失調症なども含めて、人口の1%がなんらかの意味で精神の疾患があるというようなのであれば、特にそうです。昔と比べるのはどうかと思いますが、現代の精神医学はあまりにも、何にでも病名をつけることで、本来個人個人が責任を負い、正常であるとして対処しなければならない事に対してもエクスキューズを与える根拠を増やしすぎているのではないでしょうか。
 うつ病。人格乖離。統合失調症。発達障害。
 この中にはあきらかに器質的、物理的な問題もあって病気として対処しなければならないものもあるでしょうし、無理解に苦しむ患者にはさらに手厚い保護がいるでしょうけれど、そうでないものに対してもエクスキューズを与えすぎてしまっているような気がします。自分は○○だから、というのを逃げにしてしまう者を増やしてしまっているように思えます。
 ともあれ、そういう事も含めて、精神病院の現状や歴史、法律との兼ね合い、犯罪や刑罰との兼ね合いなどを概観させてくれた上で、あれこれ考えさせてくれる一冊でした。文庫だし、お勧めです。

狂気という隣人―精神科医の現場報告 (新潮文庫)

狂気という隣人―精神科医の現場報告 (新潮文庫)