小説・漫画好きの感想ブログ

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「死者の名を読み上げよ」 イアン・ランキン著

 イギリスはエジンバラが舞台の海外ミステリ。
 リーバス警部シリーズの最新作です。
 今回は、少々趣向が凝っておりまして、2005年にイギリスで行われた現実のG8を実名背景にしての事件です。
 まだ若き日のトニーブレアを中心に行われたG8、それにあわせて起こった大規模デモに、ロックコンサート、ヤクザと議員の覇権争いなどを混ぜ込んで複雑な上にも複雑なプロットを組み込んだミステリ長編がこの「死者の名を読み上げよ」です。
 ミステリとしての完成度ということでいえば、プロットこそ複雑に仕上げてはいるものの、メインのトリックというか本筋はわりあいと単純で、その点はちょっとマイナスです。今までのリーバスものと比べると、ミステリの完成度としては低めです。けれども、ボリュームとしての読み応え、リーバスとシボーンの葛藤などはむしろ増量気味で十二分に堪能できます。特に、今作では、今まで以上にシボーンが重要な要素としてクローズアップされており、彼女の心の葛藤だけでもじゅうぶんに一本分の読み応えがありました。
 このシリーズ、そもそもの主人公が、清廉潔白でもなければ、ルールにも従わない、上司の言う事にも容易には従わなければ、事件解決・真犯人逮捕の為には多少の事は無理無体も通してしまうという型破りな人物です。軍部の特殊部隊崩れで、場合によっては法令無視も厭わない、女性関係もルーズで、かなりの酒浸り、これで事件解決能力がなければただの人格破綻者なんですが、事件解決にかける執念とそのためには全身全霊ですべてをかけて戦う姿勢がかっこいいんです。
 そんな警部なんで、自分の中でのイメージでは40から50くらいの多少腹はでてきたもののまだまだ逞しい姿を想定していたのですが、いつの間にやら作中での彼は60を越えておりまして、もうじき年金生活に入ることが確定しておりました。いつの間にやら、読み繋いでいくうちに、シリーズの中ではずいぶんと時間が流れていたものです。
 (とはいうものの、作中のリーバスはあいかわらずタフで力強く、パワフルなんですけれどね。年齢についての記述がなければ、もっともっと若い彼を想像するくらいです)
 
 ともあれ、そんなこんなで老境の域に達しつつあるリーバス警部ですが、ここまでくるとこの後はどうなるのでしょうかとそれだけが心配です。さすがにこれ以上年が進むと、派手なアクションやら、上司との衝突というのも難しいですしょうから、過去編に戻るのでしょうか。