小説・漫画好きの感想ブログ

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「老師と少年」 南直哉著 感想

 庵に住む老師と、夜な夜なそのもとへ通う少年。
 少年が人生の意味を問いかけるのに対して、ゆっくりと自分の過去を語りながら答えていく老師とのやりとりのみの短い小説。人生を生きる意味とは何か、自分とは何か、自分はどのようにして生きていかねばならないのか、古今東西の誰しもが一度は考え、いつしか考えなくなってしまう哲学的なテーマを小説の形で展開していくのだが、、、結論が出ないところがずいぶんと正直で良いなと思います。
 少年の問いに、老師は経験談としてこう答える。一切の理解を捨て神を信じることで満たされると説く人もあるが、それは真実のことではない。逆にまた、全てのものごとはかりそめのもので実体も意味もなくただそこにある虚無のようなものであると説く人もあるが、それも真実ではない、と。
 この一神教的な神の教えの否定と、虚無の思想の否定から考えると、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と同じく、著者は仏教的な素養があってそちらに傾倒されているのであろうとは思われますが、それを強く論理展開せずにとどめているところも好感が持てます。
 ただ、わりあいと単調なので、そのあたりがちょっとマイナスかな。
 同じような系列でいくのであれば、ヘルマン=ヘッセの「シッダールタ」のほうがもう少し深かったような気がします(とはいえ、そちらを読んだのは20年以上前だから曖昧ですが)。
 また、関連して思い出しましたが、このような問答形式での同種の問題を扱った話では、最近新作が出ないですが森博嗣の「迷宮百年の睡魔」も同じようなことを扱っていて、こちらはキャラクターがしっかりと立っていたのでより読みやすかったです。

老師と少年 (新潮文庫)

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