小説・漫画好きの感想ブログ

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「桜小町―ひやめし冬馬四季綴」 米村圭吾著 

 「めだか姫」シリーズなどを筆頭に人気シリーズがいくつかある米村圭吾作品ですが、今回の新刊は彼の出世作で原点作品である「ひやめし風流伝」を彷彿とさせる、柔らかな語り口の作品です。とはいうものの。語りのソフトさや、読み聞かせ小説のような体裁はとりつつも、プロットごとのシーンシーンはけっこうほのぼのしているものの、最後まで読んでいくとこれが結構生臭いというかドロドロな話で、主人公の純真さというか真っ正直さが本当に希有なものなのだなぁと気付かせてくれる話です。
 さえない冷飯食らいの貧乏役人の次男坊、格上の藩士のこれも次男坊の友人、山奥に住む剣の達人の師匠、城代家老の美貌の娘、その妹の器量不足の妹、悪事を働いていそうなもう一人の家老、悪徳の豪商といういたってわかりやすい記号的な登場人物達は、最初、ごく一部をのぞいてはいい人たちです。物語の序盤で抱いた各登場人物への第一印象は、最後まで読むとたぶんガラガラと音を立てて崩れ落ちていきます。「え、あなたが?」「君まで?」という感じで、人間不信になってしまう展開です。
 ただ、それでいても、どこかほんわかした感じが漂うのは独特のこの語り口と、今では「しゃばけ」でも有名な挿絵作家さんの力によるところが大なのでしょうね。