小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「ワーキング・ホリデー」 坂木司著 

 今年47冊目の御紹介本。 
 引きこもり探偵シリーズの「青空の卵」などで知られる坂木司さんの文庫最新刊です。
 坂木さんの持ち味は、基本的に善人で心暖かい主人公の紡ぎ出す暖かな気持ち溢れる語り口なのですが、本作でもそれは遺憾なく発揮されています。非常に暖かいです。昨年に出版された「切れない糸」という作品もクリーニング屋さんの青年を主人公にしたハートフルなミステリでしたが、この「ワーキング・ホリデー」もミステリではないもののハートフルな物語であることでは甲乙つけがたい作品になっています。
 今作の主人公は、「大和」という名前の元ヤンキーのホスト。
 彼がつとめるホストクラブに、ある日突然彼の息子だと名乗る「進」という小学生が現れます。進は、つい最近まで父は小さい頃に死んだと聞かされていたのですが、とあるきっかけで父親の存在を知り、一人で父に会いにきたのです。存在を知らなかったのは父である大和も同様で、子供の存在に戸惑い、父親であることに戸惑う大和ですが、迷って悩んだのもほんの僅か、徐々に自分の子供にべた惚れとなっていきます。おりもおり、それを契機にというわけではないけれど、彼はホストクラブのオーナー命令で「蜂さん運送社」という宅配業者へと転職します。しかも、彼が運転するのはトラックでもバイクでもなくリアカーという超レアなもの。元ヤンキーからするとかっこわるいことこの上ない、リアカーをひきながらでの宅配に転職するんですが、子供のためならと全力でがんばる大和。それを見て、自分の父親に対する再評価をしていく進。
 二人の短い夏は、夏休みの終わりとともに終わるわけですが、その短い期間での真っ向からのつきあいには思わずホロリとさせられてしまいます。坂木さんの作品は、暖かさも作品としてのクオリティも本当にハズレがないです。普通にお勧めです。下手をしたら、夏休みの課題図書とかに選ばれかねないくらい、いたって普通に正しくて、それでいて面白かったです。

ワーキング・ホリデー (文春文庫)

ワーキング・ホリデー (文春文庫)