小説・漫画好きの感想ブログ

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「バガージマヌパナス—わが島のはなし」 池上永一著 

 今日は休みなので、あれこれの整理をしながらたまっていたレビューを少しずつ書いていきますね。

 さて、最初の一冊目は「パガージマヌパナス わが島のはなし」という作品。
 これは、沖縄のゆったりまったりとした空気の中で、主人公の綾乃という少女が成長していく物語です。といっても、主人公が成長していくビルディング小説ではあるのだけれど、そこには一片の堅苦しさもなく、綾乃の友人で90前のおばあちゃんのオージャガンマーとの無茶苦茶なやり取りや、島一番の巫女であるガニメカとの戦い、神様相手にさえ平然と嘘をついたり文句を垂れる綾乃たちを見ていると、とにかく楽しくてリラックスできて笑えるお話で、ひさびさに南方の緩やかさを満喫できた一冊で大満足な一冊です。
 ちらりと書きましたが、この物語の中では、沖縄のもつ伝統的な宗教観や、スーパーナチュラルな世界が普通に当たり前の大前提で出て来ます。それは、作中でも語られているように、本土の人間たちとはかなり違う世界観であり価値観ではあるのですが、それの緩さや奥深いところの自然回帰や先祖崇拝の部分はなかなかに癒されるもので、こういう素朴さやおおらかさも大事だよなぁと共感いたします。 
 これは、この文庫版の解説で「ファンタジーといえば、トールキンにせよナルニアにせよ、北方の真面目に働くファンタジーが普通思い浮かべられるけれども、それだけではないことに驚く」という言葉にも繋がってきます。確かに一般的なファンタジーでは強い敵や脅威があってそれに対抗するために山に登ったり、辛い旅をしたりというのが定番ですが、こういう緩いファンタジーもとてもありだなと思います。
 特に世の中がこうも不景気なおりには、南の緩やかさや身体がほどけるような感覚がとても心地よいものです。
 
 蛇足ながら同じ作者で「風車祭り」というおなじ沖縄を舞台にした焼き直し的な作品があります。そちらは700ページ超の大作ですが、この本以上によりファンタジックでマジックリアリズム的な語りの不思議さがあり、終わるのがもったいなくなるような魅惑的な一冊です。