小説・漫画好きの感想ブログ

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「セミたちと温暖化」 日高敏隆著 

 動物行動学のセンセイで、竹内久美子さんの師匠筋のセンセイでもある日高先生の遺作です。とびとびにしか読んでない日高先生の本ですが、この先生はその道の本当の意味での権威で開拓者であるだけに、変に偉ぶらず穏やかで実に品のいい読んでいてしみじみと暖かな気持ちになるエッセイをお書きになります。 
 この本は、タイトルがタイトルだけに、変にアジテーション気質な地球温暖化論者や環境論者に悪用されそうだが、内容はそんなようなものではない。温暖化については、あくまで温暖化は温暖化としてあるがままにそのまま変数として受け入れ、それがどんな事に影響を及ぼすかについて考察する作品がいくつかあるだけで、どちらかというと動物・昆虫のエッセイといったほうが正しい。
 帯や紹介文にはこうある。
 「東京では珍しかったクマゼミの声を、最近よく聞くようになった。虫好きは喜ぶが、ことはそう単純ではない。気温で季節を数える虫たちが、温暖化で早く成長する。しかし日の長さで春を知る鳥たちは、子育て時期を変えられない。餌が少なくて親鳥は大ピンチ。ひたひたと迫る温暖化の波に、生き物たちはどういう影響を蒙っているのか?自然を見つめる優しい目から生れた人気エッセイ」
 でも、実際にはそこまで地球温暖化がテーマとして前面にあるわけではなく、普通にさらっと動物や昆虫について語られている。僕が一番感銘を受けたというか感心したのは、昆虫のフェロモンについて。たぶん、皆さんの中にも僕と同じように、昆虫などのフェロモンは強力で、その匂いにつられてオスやメスは遥か彼方からやってくるものだと思っている方もいると思う。けれど、実はそうでもなくて、むしろ、オスもメスも盲滅法にとんでいるその軌跡上にたまたまフェロモンがあると方向転換するという程度のものであるらしい。そういう変な思い込みや間違った刷り込みを正してくれる、そういう本です。
 時間があるときにゆっくりゆったりと読むのにいい一冊です。

セミたちと温暖化 (新潮文庫)

セミたちと温暖化 (新潮文庫)