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「孤宿の人」 宮部みゆき著 感想

 本年27冊目の紹介本です。
 感想レビューの怒濤のスタートダッシュ(あの頃は若かった)の貯金も切り崩してしまったので、一日一冊ペースに戻ってしまいました。さて。
 今日紹介するのは宮部みゆきの「孤宿の人」です。上下巻で分厚かったんですけれど、年末年始あたりからじわじわと読ませていただきました。
 物語の舞台は江戸中期で金比羅山にもほど近い丸海藩という四国の小藩。ここに流れ流れて居着くことになった、「ほう」という余りにも可哀想な境遇の少女を狂言回しの主人公にして、物語の幕はあがります。江戸幕府からの厄介な押しつけものとして、元勘定奉行の加賀某という人物が罪人として流されてくるということで藩そのものがざわざわとしている中で起こった殺人事件。彼女が下女として働く医系の家で起こったその事件の犯人は、藩の要職にある人物の娘で、殺された娘の幼なじみの女性。皆がそれを見て知っているはずなのに、それは行なわれなかったことだ、病死だ、彼女は家にすら来ていないと誰もが口を噤みます。「ほう」はそんなことはない筈だと声を大にして言いますが、まわりの言葉と態度の急変に、自分の頭のほうがおかしいのではないかとさえ思うようになります。「あほう」の「ほう」だとも揶揄されるような少女は、結局、この事件が原因で住んでいた家を追われることになり、いろいろな紆余曲折の末、丸海班の岡っ引きのさらに下の身分の若い娘の家に同居することになるのですが、それも束の間のこと、彼女はさらに過酷で色々な人々の思惑が渦巻く加賀様のもとへと行く事になります。。。
 
 ということで、書いていて、、あまりに自分の文才のなさに呆れかえるようなしっちゃかめっちゃかな説明で申し訳ないですが、そういう時代ものでミステリもののお話なんですが、これが実にいいんです。
 下敷きとなる話は、江戸の妖怪、鳥居耀蔵が四国の丸亀藩に送られた話なんだろうなと察しはつきますが、それはあくまで大枠のところだけで、実際の中身は宮部みゆきさんらしい実に感情豊かで人の気持ちの奥深い部分を強く揺さぶる小説になっています。「ほう」の名前は最初は本当に「あほうのほう」なんですが、それが少しずつ変化していく(これは読んでのお楽しみ)部分や、不条理なねじれた理不尽な世界の中で、ほうがもつ純粋さと諸悪の根源のように忌み嫌われる加賀様と「ほう」の邂逅とそのあれこれもが、実に良いのです。
宮部みゆきの小説だけに、人々が感情豊かであると同時に、その時代の身分制度や組織の怖さもしっかりと描かれており、物語の奥行きも非常に深いです。
 断然お勧め。
 5段階評価の5でお勧めします。
 
 

孤宿の人〈上〉 (新潮文庫)

孤宿の人〈上〉 (新潮文庫)


孤宿の人〈下〉 (新潮文庫)

孤宿の人〈下〉 (新潮文庫)