小説・漫画好きの感想ブログ

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「風は山河より」5巻 宮城谷昌光著 

 戦国時代中期の年代記もいよいよ終盤。
 この巻では、二万の軍勢を率いて尾張に進攻した今川義元が、かの桶狭間の戦いで信長の寡兵に敗れて命を落とします。その流れのあとに、父の死、弟の謀叛を乗り越え、元康に属く決心をした菅沼定盈は、その手腕で信頼を勝ち得るもののの人質にとられていた妻を殺され、また守るべき野田城が落城させられるという過酷な運命が待っています。
 この「風は山河より」は三代にわたる菅沼新八郎の歴史を家康にわたるまでの徳川三代と絡めながら書いてある話なんですが、今回の主人公の新八郎も含めて菅沼の三代はそれぞれがしっかりと自身の忠節と信義を旨に清冽に生きているのにどうにも報われない一族で読んでいて運命というものの厳しさを感じてしまいます。それぞれの代が、懸命に生きて誰からも後ろ指をさされない統治をしているのにも関わらず、今川、徳川、武田、織田などの当時の列強の大名達の動きに翻弄され続けます。周囲の様々な家は、家族や兄弟を敵味方に分けさせたり、或いは陰謀でもって自分の家の利益を図るのですが、菅沼新八郎は節義を曲げずに懸命に戦います。しかし、戦国の習いなのか、悲運が続きます。
 しかし、その悲運の故か、彼らの生き方が胸に響きます。
 それを際立たせるために創作されたであろう、古河公方の忘れがたみであると目される四郎や布佐という女性がさらにそれを増幅させます。菅沼三代に寄り添うようにして彼らの生き方を導いていく二人は、常に山川の声を聞き、泰然とした流されない生き方を菅沼の一族に示しますが、そうした正しい声をもってしても戦国時代に生きる彼らには様々なことが起こってしまうのは避けられません。そういう時に彼らがどうそれを乗り越えていくのか。
 いよいよ次の六巻でこの物語もクライマックス。
 次の巻では菅沼新八郎の名を後世に残すこととなった、圧倒的な兵力の武田軍三万人と菅沼新パ郎ら四百人の攻城戦が描かれることになります。
 

風は山河より〈第5巻〉 (新潮文庫)

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