小説・漫画好きの感想ブログ

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「真鶴」 川上弘美著 感想

 まだ幼子をなくしたまま、主人の礼が失踪した。ある日突然にぷっつりと。
 それから十数年、子供の百と祖母と暮らす主人公の京は、妻子もちの青磁という男性と情をかわすようになっていた。京はあるとき、誘われるように真鶴という土地へ旅をした。旅先では、人の目には見えない女性が彼女のまわりにつきまとった。その女は、京が東京に戻ったあともしつこく彼女の前に姿を現し続けた。
 なんらかの因縁があるのか。真鶴に再び旅立った京は礼の影を感じつつ、女との距離を縮めていく。人ならぬもの、見えざるものと距離を縮めることは周囲の空気を徐々に侵食していく。何かが決定的に失われ壊れていく。真鶴にはいったい何があるのか
 そこにはどうも何やら釈然としない過去や、不可思議な幻想、そして彼女自身の狂気が埋められているようだが。。。。
 
 ということで、主人公の京という女性の一人称で語られていく物語。読む前は川上弘美独特のあわあわとした淡い恋愛ものか不可思議で不条理な話が展開していくんだと思っていましたが、読んでみると、そんな簡単なお話ではなくて、最初はそのスローペースさととりとめのなさに投げたくなりましたし、中盤ではやはりその奇妙さとなんだか落ち着かない座りの悪さ・女性のマイナス部分、負の特性が存分に前に出ているようでやめかけ、中盤の終わり辺りからは語り手の女性にまったく信用がおけなくなり、ドラマとしては面白くなってくるものの生理的な拒絶感が強くなって気持ち悪くなって、、、ラストはまたこれでいいの? と個人的には救いがないというか落ち着きが悪くて気持ち悪いままで、、と小説的な気持ちよさや楽しい部分はいいとこなしで終わってしまう物語でした。
 しかし。
 それであるのに、奇妙に心に残るというか、なんだかべったりとこの作品の世界や重さ、肌にまといつく感じが強く強く肌感覚でリアルに気持ち悪くて、小説としてはとても力を強くもっているといわざるを得ない不思議な作品でした。
 少し前に読んだ米澤穂信の「ボトルネック」も後味の悪さと心に残るものの強さはダントツでしたが、これは更にその上を行きます。しかも、決して読後感も含めて作品中には気持ちよくなったり楽しくなったりする要素が(少なくとも自分的には)全くないというなんだかよくわからない状態。まさに気持ちが悪い状態です。けれど、小説としてのできは、それだからこそか、とても強いのだと思います。

 基本的に僕は女性という存在が好きです。
 フォルムもさることながら、こまやかな所も、優しさも、母性も、感情の起伏の激しさも含めて自分にないところがあるところもいいし、なにより見ていて素直に美しいなと思えるところが好きです。
 しかし、女性のある種のしつこさだったり、不安定さや、執着心の強さに辟易したり、気持ち悪くなったりすることもあります。理解できなさ加減に疎ましく思えるときもあります。多分それは、女性も男性に対して思う事しばしばの感情だろうし、そもそもがどちらかが他方より優れているということはないのでしょうけれど、この小説を読むと女性の嫌な部分がものすごく増幅されてまとわりつくようで、、下手をしたら女性嫌いになるんじゃないかと思うほどでした。
 是非これは、この本を読んだ人の感想を、特に女性で読んだ人の感想を聞きたい本です。

真鶴 (文春文庫)

真鶴 (文春文庫)