小説・漫画好きの感想ブログ

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「グラーグ57」トム・ロブ・スミス著 感想

 チャイルド44の続編です。
 前巻で、児童連続殺人事件の犯人を追いかけて逮捕したレオは、正式にソ連で初の殺人課の刑事となります。旧ソ連では、社会主義が適正に進んでいく中では殺人などは起こらないはずという建前が全面にあったのでそういう部署は存在していなかったのが、レオのまさに命を賭けた活躍で党からその許可がおり、彼はその殺人課の刑事となったのです。
 そんなおり、レオのもとには数件の殺人事件の調査が舞い込みますが、その影にはスターリン時代に迫害・投獄・殺された人々の怨みが強く見えます。おりもおり、フルシチョフスターリンの恐怖政治を批判した公式文書が出回り、スターリン時代に密告や裏切りをしたものへ逆の意味での粛正や復讐が始まり、事件もそれとリンクしたものだったのです。昨日までは正しいとされてきた事が裏返り、みんながそうしているからと裏切ったり密告していたものが復讐のターゲットにされる恐怖に怯える世がやってきました。
 レオとても、過去には何百人、何千人の人々を無実かも知れないが、処刑台に送った過去をもつ人間です。
 そして。いよいよ、復讐者たちはレオのもとへもその手を伸ばし始めます。しかも、フラエラと呼ばれる最強の悪役が登場します。彼女はかつてレオに主人を奪われ、自分も逮捕され、息子を奪われたという過去をもち、自分の「正義」でレオに復讐の炎を燃やします。レオは前作のラストで、間接的にではあるものの自分がその両親を殺してしまった幼い姉妹たちと暮らし始めましたが、その娘達にもその手は伸びます。しかも、その姉妹のうちの姉のほうのゾーヤはレオに対してもともとが激しい怨みを抱いていただけに事態はより過酷なものとなります。
 ということで、多少あらすじをネタバレ気味に話していますが、この小説、かなりきついです。読んでいると精神的にかなり来ます。今回はややプロットが入り組んでいるもののテーマは「復讐と愛」といたってシンプルなんですが、その「愛」が厳しいです。
 主人公のレオは、因果応報とはいうものの、徹底的に人々に裏切られ痛めつけられます。ハードボイルド小説の主人公達は自分の信念やら強がりで痛めつけられますが、レオはそういったイデオロギーにかかわりなく、もともともの彼の過去のために徹底的に裏切られ痛めつけられます。愛していると思っていたものには裏切られ、信じているといった相手にはあっさりと裏切られ、尽くしてきた国家にもまた裏切られ、子供達にも裏切られ、助けた囚人達には裏切られ、裏切られの毎日と暴力にさらされる毎日です。ある意味,この小説はマゾの方でなければ読むのがかなり苦痛な部分も多い筈です。
 肉体的な痛みには耐えれても、精神的な痛みにはなかなか人は耐えられないものです。しかし、レオはひたすら耐えます。かつてのKGBのような過去の自分の過ちからいかに自分自身では更生し、愛に目覚めたつもりでも、周囲はそんなことにおかまいなく彼を見ます。そのあたりが辛くて辛くて読み進めるのにも一苦労致しました。
 面白いか、面白くないか、といわれれば面白いんだろけれど、けっこう読むのが辛かったです。文章がもうちょっと流麗だったら読みやすいかなという気がしないでもないですが、その引っかかり具合というかぎしぎし軋む感じが世界観と一致しているから下手に触れないのかとも思います。
 

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)


グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)


http://yuki-wan.at.webry.info/200909/article_4.html