「カポネ(上)」佐藤賢一著 感想
カポネです。
もちろんアル・カポネです。
アンタッチャブルと戦ったので有名なあのアル・カポネの物語が、彼がまだ子供だった時代のことから時代背景や土地柄まで含めて書き起こされ、伝記小説のようにきっちり作法通りに話が紡がれているのが本書です。さりながら、そこは佐藤賢一、一筋縄ではいきません。カポネをただのギャングの親玉として描くのではなく、一人のイタリア系アメリカ人の自分自身との戦いあくなき理想モデルへの挑戦へと位置づける、今までとまったく違うアプローチで描かれたアル・カポネの物語となっております。
そういう理由で、アンタッチャブルは出て来ません。下巻のほうでは、エリオットネスが主役として登場しますが、この上巻では彼の存在なんてどうでもいいような感じで殆どその存在を忘れていたくらいです。禁酒法という馬鹿げた法律のおかげでアル・カポネ達が大金を儲けたことは間違いがないんですが、そういうところに秩序とそれなりのルールを持ち込んでまとめていくカポネとその師匠筋のセンセイの組織論などを読んでいると、あれは法律のほうが馬鹿げているだけだと思わせます。
またカポネにとっては、禁酒法での儲けなどは単なる一つのものごとに過ぎず、彼がなろうとしていたもの、しようとしていたこと、目標としていたものの前にはそれは取るにたらないこと、たまたまのシチュエーションだったんだと思えます。
変に美化しているわけでもないのですが、これを読むと今までのアル・カポネ像は大きく変わることになると思います。派手派手なスーツとボルサリーノの中折れ帽にこわもてのスカーフェイスという基本は変わりませんが、中身は大きく違います。
- 作者: 佐藤賢一
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 文庫
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