小説・漫画好きの感想ブログ

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「雷の季節の終わりに」 常川光太郎著 感想

 恒川光太郎の第三作品、文庫での最新刊です。
 デビュー作、前作同様に、この世界と微妙に重なり合う異世界を舞台にした幻想小説ですが、あいかわらず巧いです。もう何十年とこの世界で文筆業をしている老成作家のような落ち着きと技巧でこの小説は書き上げられています。才能というのはあるものなのだなぁとこの作家の作品をむと強く思います。
 (同じようなオンリーワンの才能でも、SFの北野優作や、ペダンチックで硬質な佐藤亜紀などと比べたら、ジャンルこそマイナーだけれど受け入れられやすい文体ですし、この人はどこまで伸びていくんだろうなぁと思ったりもします)
 さて。作品のあらすじはというと、今回の舞台は「隠」という異界。この世界では、春夏秋冬に加えて、雷の季節、別名神の季節というものがあります。その期間には雷がなり続け、風が吹きすさび、到底人は外を歩き回れるような状態にありません。加えてこの季節には、神によって連れて行かれる村人も出たりします。その村に姉と弟の二人で暮らしていた少年が今作の主人公なんですが、彼の姉も雷の季節に誰かに連れ去られてしまいます。また、同じ時期に、彼には何ものかが取り憑いてしまいます。はじめは、ただただそこにいて、自分を通して世界を見ている「何か」。それに気付く村人もいれば、気付かない人もいますが、少年はそのことを気にかけており、どこか世界から隔離されているような弾かれているような疎外感を持っています。
 そんな彼の転機になったのは、彼の知人の女の子が行方不明になったこと。その少女は、ある日村からいなくなってしまい杳として行方が知れませんでしたが、ある日、彼はその女の子の幽霊に出会います。。。ここから物語は加速して、過去と現在がうまく繋ぎ合わされていくのですが、その構成が見事で先が気になって一気に読ませます。中盤からだいたいの人物の繋がりは見えてはくるのですが、どうしてそうなっているのか、本当に運命を操っていたのは誰か、などなど気になってしまいます。
 前作前々作同様に、わかりやすい回答があるわけでもなく、明確な世界観があるわけでもないのですが、それがフラストレーションにならずにただただ世界の奥行きを感じさせるのが巧いなぁと思います。当分、作者はこの路線で行くのでしょうが、それでもワンパターンにならずにいけるほどにこの世界は広がりを持っています。物語の器として、いい金脈を恒川光太郎は引き当てたのでしょうね。
 お勧めです。