小説・漫画好きの感想ブログ

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「現代短篇の名手たち2 貧者の晩餐会 」 イアン・ランキン著 感想

 イアン・ランキンといえば、イギリスのエジンバラ周辺を活動の舞台にしたリーバス警部のシリーズが有名ですが、この「貧者の晩餐会」は短編集ということで、リーバス警部もの以外の作品も多く収録されておりまして、イアン・ランキンという作家の個性がとてもよく出ている作品集となっています(勿論、リーバスものもありますが、それ以上に多くの非リーバスものが収録されています)。一言でいえば、斜に構えていて、人生の闇だとか、没落していくほうが人間として当たり前というか自然だというニュアンスが色濃く、イギリスの空のように陰鬱な部分がけっこう強く出ています。暗いといえば暗いんだけれど、その暗さの中にちょっと凶暴な何かと、よかれあしかれ文化というものがきっちりある社会が描かれていて、うまく言えないんだけれど、明らかに日本とも他の国とも違う何かが強く出ている作家で、そういう意味ではキャラクターを描きつつも、一つの世界というものをしっかりと描いている作家なんだとも思います。
 ミステリもので短編集なんで、今回のレビューではあらすじとかはあえて割愛しますが、じっくりと読むのがあう短編集です。
 さて。一つだけ蛇足的に取りあげると、この本、以前ポケミスのほうで「貧者の晩餐会」というタイトルで出ていたものとは若干収録作、作品数が違うようです。この文庫版のほうは「現代短篇の名手たち」というくくりの中の一冊で先行作品がデニス・ヘイレンの「コーパスへの道」となっています。なんでこんな変な形で出ているのかまったく謎ですが、コアなファンの方は違いをチェックするのも一興でしょうか。