小説・漫画好きの感想ブログ

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「きつねのはなし」 森見登美彦著

 京都を舞台にした、幻想短編小説集。
 奇妙な骨董品を商いする法漣堂、薄気味の悪い何かを飼いならす老人、狐の面を被った男、そして細長い身体をしたケモノ。そういったものをモチーフにした、繋がっているような繋がっていないような全作品が繋がっているようないないような短編集です。
 前に読んだ「夜は短し歩けよ乙女」とは全く逆ベクトルといっていい、暗く幻想的なタッチの作品で読む前の印象と読んでからの印象が大きく違った本でした。
 ただ、作品の評価としては表題作の「きつねのはなし」はずいぶん高くつけますが(この話はとても面白かったし、幻想的だったし、叙情的だったし、怪談としての完成度も高くて文句のつけようがなかったです)、それ以外の作品や本全体としては微妙な感じでした。あくまで個人的な感想ですが、どこかしっくりとこない、こなれていない感じがしました。それは最初に書いたように、いくつかの共通するモチーフや、人物が4作品を通じて出てくるのですが、それが作品ごとに別々の人物・モノとなってでてくるので違和感がどうしても先にたってしまうというのが第一点。それから、もう一つは、こちらは自分の能力的な衰えなのかも知れませんが、幻想小説の持ち味であるはずの見えないものが見え、見えるものが見えないといった幻視能力をかきたてる部分ですんなり世界に入り込めなかったのがもう一点です。
 尤も、これはさきに個人的な能力の衰えと書きましたように、自分自身の持っている幻視的に小説世界に入り込める力が弱っているからかも知れません。昔は小説の世界、漫画の世界に簡単にそのまま入り込めてどっぷりと浸かりこめたのが、最近はそういう風にさらりと世界に入り込むことがときおり出来ない時があります。だから、作品そのものがどうというよりはこちらの能力の衰え(もしくは欠如)部分が、作品全体の評価を微妙とさせているのかも知れません。
 ミステリ小説や、純文学と違って、幻想小説や怪奇小説などはその能力・感じ方によって評価が変わってしまう特性がありますので、そのあたり注釈としてつけておきます。また、この作品において描かれる京都は現在もしくは近過去の京都であるものの、その闇の濃さ、不条理さ、そして幻想的な美しさという点では他の作品にない濃い色合いを見せてくれていて、そのあたりにはとても感服したことも付け加えておきます。恒川光太郎のような風合いでした。

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)