「不連続な世界」 恩田陸著
自分の中では恩田陸作品のベスト3に入る「月の裏側」の主人公、塚崎多聞が主役を張るミステリ短編集。不思議で、ありえないような事件や、日常の謎を多聞が解き明かしていくお話。若かりし頃の多聞、中年期も半ばを過ぎた多聞、いろいろな多聞が茫洋とした雰囲気を保ちつつ、事件の真相を解き明かしていきます。主人公の性格が性格なんで緊迫感は漂わないのですが、恩田陸らしい奇妙さとちょっぴりのホラーティストがブレンドされていて、佳品と読んでいい短編集かと思います。最後の作品である「夜のガスパール」では、一年以上連絡がつかない妻ジャンヌを殺したのは多聞本人ではないかと告発され、現実が歪んでいったりと予想外な事件もあったりします。個人的にはこの最後の作品が一番好きなのですが、他の作品も小粒ながらよく練られているように思います。
味わいとしても、恐怖に傾いた「悪魔を憐れむ歌」、意外なトリックというか真相の「砂丘ピクニック」そして日常が崩れていく「夜明けのガスパール」などバラエティも豊かです。
あと、掲載雑誌の影響があったのか、トラベルミステリのように、日本各地の観光地が話の舞台になっていて、そのあたり旅好きの人にもお勧めかも知れません。以下、列挙します。
木守り男 -- 東京
悪魔を憐れむ歌 -- 奈良・花の道
幻影キネマ -- 広島・尾道
砂丘ピクニック -- 鳥取
夜明けのガスパール -- 四国
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2008/07
- メディア: 単行本
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