小説・漫画好きの感想ブログ

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ドバイ旅行記2 凄まじい熱気と建築群


 猛烈に暑い。
 空港ロビーから外へ出た瞬間、まるでサウナの中に入ったような熱気が襲って来た。
 気温は33℃。朝の5時過ぎで、太陽のかけらもまだ顔をだしていないのにとんでもない熱気が顔だけでなく全身を包み込んできた。暑い暑いと出発前から言われてはいたが、正直ここまで暑いとは思っていなかった。湿度が80%から100%だなんてことは聞いてもいなかったが、まさにサウナ。立っているだけで背中に汗がじんわりと浮かんでくるようだった(勿論、その後の数日間で昼間の48℃なんていう気温も体感することになるのだが、それはまた別のお話で、33℃もかなりのものだった)。
 エミレーツ航空というドバイ国営の航空会社で、お尻の痛さと戦うこと十数時間、我々一行はドバイ空港へと降り立っていた。出発したのは、日本時間で18日の夜だったが、時差が5時間ということで、現地についたのはあちらの時間で朝の4時過ぎだった。後でまた詳しく書くが、とてつもないボリュームの食事を二回ほど取り、映画を何本か見てもそれでも時間があまりまくった長い長いフライトの末にようやくという感じで空港にたどり着いた我々は、まだ旅行の本番前だというのにかなり疲れていた。
 たぶん、これが昼間の到着なら空港はもっと賑やかだっただろうし、ウェルカムな雰囲気があったんだろうけれど、いくら国際空港といえど夜中の4時はやはり夜中の4時で、あまりに閑散としていて、それもきっとその空気には影響していたと思う。
 特に、入国管理があちらの人間と日本人とは違うのか、我々が両替と入国管理を終えて空港ロビーまで降りて来たときには既に他の乗客の姿はなく、僕らがそのロビーから空港玄関までで見た人間といえば、アラブ人が幾人かと、チェ・ゲバラそっくりの髭面の警備員だけだった。いかにも外国を感じさせる彼らは、こちらをじろっと一瞥するだけで一切の感情を表に出さない。
 "Come from Japan? "
" Yes "
" OK next "
「よいご旅行を」もなければ、「ようこそドバイへ」もなし。にこやかな女性受付もなし。いたって事務的に即物的に僕らは彼らの前を通過する。まさに日本ではありえないほどに無口でクールで異国的だ。
勿論、そもそもの顔立ちからして彼らから異国の雰囲気が漂うのは当然なのだが、それ以上に彼らから異国を感じたのは、笑顔を全く見せないそのスタイルのせいだったという事に気づいたのは少ししてからだった。イスラムの教えからそういう態度になっているらしいのだが、そのあたりから、サービス業の人は意味不明なくらいニコニコ笑顔でいるのがデフォルトの日本とは、大きく文化が違っていて興味深かった。ただ、これはもう好みの問題だが、僕は純日本人だからかサービス業で相手がほとんどノーリアクションで笑顔がないというのは違和感があって、それは旅の最後まで取れなかった。
 別に接客が絶対に笑顔である必要はないのだが、幾つかの店でニッコリと笑顔でサービスをする従業員を見たときにはなんだかホッとした。尤も、そうした笑顔での対応をしてくれたのは一流ホテルのスタッフのごく一部と、アジア系のスタッフだけだった。つまれは、それは完全に世界標準ではないという事だったわけだが、このあたり他人はどうなのだろう?
 ところで、今回の旅の参加メンバーは、今回の旅行のスポンサーである関西電力さんとダイキン神戸の社員さん、添乗員、上得意顧客と近畿地区のオール電化業者のメンバーが数人の合計13名だったが、この時点では自分はほとんどのメンバーと話をした事がなかった。ダイキンの社員さんとは何度か話したことはあったが、そこまでよく知っているというわけではなかったので、気分的には一人旅に近い感覚でまわりを眺めていた。視界に一切日本語がない空間であるだけでなく、英語の表記すら少なく、イスラム方面のあのうねうねっとした文字しかない、何がどうなっているのかはさっぱりわからない世界をただただ眺めていた。
 
 しばらくして、送迎のチャーターバスがやってきて、ようやくと我々は宿泊先のホテルへと向かった。道は広々としていて、片側6車線という広さでどんどんと風景が後ろへと流れて行く。車窓からは、建設中のありとあらゆるタイプのビルが見えた。普通の銀色の高層ビルのようなもの、エジプトのピラミッドのようなもの、前衛芸術のような不可思議な形をしたもの、途轍もなく高く空にそびえるパベルの塔なようなもの(このビルはあとでブルジュ・ドバイという世界一高いビルであることが分かる)、トルコ様式のようなもの、ありとあらゆる色と形の高層ビルが見えた。
 このドバイという国は、建国してわずかに三十年とちょっとで、それまではベドウィンたちが住み、ビルはおろか一般に建物といえばナツメヤシの木で作った海の家のようなものしかなかったらしいが、今ではそれは全く信じられない。話に聞いて、知識として知ってはいてもそれを信じられないくらいのハイテク建築物が林立している。ビルだけ見ていると東京の中心地にいるようにさえ感じられた。
 中東の砂漠の国、油田があるオイルマネーの国、という言葉からイメージされるそれとは大きく違うことは間違いない。ラクダをひいて羊達を放牧をする砂漠の民がいて、ポツリポツリとムスクがあり、皺深い老人達がいて、、というようなステレオタイプなイメージを僅かなりとはいえもっていたのが恥ずかしくなるような景色がそこにはあった。
 その上で、日本をはじめとした先進国と決定的に違うものがあった。
 それは空間の広さである。
 ドバイ中心部は、高層ビル群が立ち並んではいるものの、一つ一つのビルとビルとの間の距離が極端に広い。そして、その合間合間にナツメヤシが大量に植えられていて、とてもゆったりとした雰囲気が漂っている。もちろん、それらのナツメヤシは自然には生育ではない。暑すぎるから、常に街中を通る放水チューブから水を浴びている状態で、自然ではない。けれどそれがあるのとないのとでは、色彩がまるで違う。どこから見ても空と緑が見え、ビルとビルの間には隙間があり、どこに行っても風が流れていた。熱風は熱風でも風は風。それが常に流れていくのは日本ではありえない感覚であり景色だった。 
 もっとも、それらのビルのほとんどは建築中で、近くにいけばそれなりにやかましく、未来的ではない部分もある。特に、あちらこちらで稼働中の山ほどあるクレーンの腹部に、松山建設だの中野建設だの日本の文字が書いてあると、えらくまた遠いとこまでクレーンは旅してくるのだなと違う感慨が湧いたりもした。
 とはいえ、建設に湧くそんな風景が、いくら行っても終わらず、空港からホテルまでの十分ばかりずっと続いていくと、じわじわと、なんだかこのドバイっていう街が途方もないエネルギーを街それ自体が放っているように感じられて来た。いくら建築ラッシュだからといって、目に見える範囲でひたすら高層ビルや、モノレールが作られている景色がそんなに長い時間ずっと続くということは、それだけで何千という単位でビルが造られているということで、それはなんだかやはり非現実でアンバランスな感じがした。
 そしてそのアンバランスさのもとになっている何かは、旅の間もあちこちで感じ取る事になった。一言で上手く言い表せないけれど、ドバイには奇妙に非現実な何かが確かにあった。