「ユダヤ警官同盟(上)」 マイケル・シェイボン著

　ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞アというSF三大大賞を受賞している上に、このミステリーは凄いとか、エドガー賞長篇賞だとか、ハメット賞最終候補だとかえらく冠がたくさんついているミステリSF長篇です。
　ただ、この上巻を読み終わった時点で言えば、どこらあたりがSFなんだろう? という気になってしまったりはします。確かに今の地球とは別の平行世界でのお話らしく、作品世界の中心にあるユダヤ人たちはイスラエルを作ってはもらえず、世界中に散逸。かろうじてアラスカのシトカという極寒の地に居留地というか自治区的なものを作ってもらえているだけ。しかもそこは、あと数ヶ月後にアメリカに再び組み入れられることが決定しているという、かなり可哀想な状況になっています。そのあたりが違う世界ということでSFといえばSFなんでしょうけれど、上巻の時点では他にSFらしき要素はなく、むしろ正統なハードボイルド路線を展開します。
　落ちぶれて安ホテルに居を構え、元は敏腕だったものの現在ではややアル中になった刑事。その彼の住んでいるホテルで起こる殺人。上司からはその事件は捜査しなくてもいいという通告。手がかりを追っていけば、マフィアや、手をだしてはいけない地域社会の黒幕的な人物にぶちあたる。それでも主人公は軽口を叩いて独断専行してハラハラさせる。美女も勿論登場。
　まさに王道的なハードボイルドミステリのコードです。
　ただ舞台設定やユダヤ社会という余り馴染みのない世界が舞台なだけに、そこは少し異国情緒というか違った思考や違ったルールが適用されているのが興味深く、面白く読めます。物語のほうも、出だしこそ妙にテンポが遅く作品世界にはまりにくいですが、上巻の中盤からは加速して読みやすくなってきます。
　上巻だけの感想なので、下巻を読んでみないと最終評価は出来ないんですけれど、純粋にミステリとして現時点では楽しく読みました。　　
　

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)