小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「ジキルとハイドと裁判員」 森田崇/北原雅紀著 

 裁判員制度が、いまだ賛否両論が入れ乱れて混乱したままにスタートした一昨日。おりもおり、中央大の高窪統教授刺殺事件の犯人が、元教え子の山本竜太容疑者だったというニュースが流れ、彼などはこの裁判員制度で裁かれる最初の注目事件になるようで、マスコミも、裁判員になるかも知れない人が見ているかも知れないので予断を与えないような報道を、、と最初から無理筋なことを言いながら報道しています。
 実際、この制度はかなりの部分で無理や制度不備が目立つわけですが、ただ、この裁判員制度の趣旨や意図は悪くはないと自分は思います。個人として裁判員に積極的になりたいかなりたくないか、これが万全のシステムかと言われればずいぶんとまた言うべきこともあるのですが、趣旨は悪くないと思います。ただ、そうはいっても、最初のうちはこの制度はまともに動かないだろうし、余計な混乱を生むでしょう。正しく、この法律が運用されるようになるまでは、色々な人が色々な思惑でこのシステムを使うだろうし、それによっては無罪の人間が有罪になることも、その逆の冤罪もあり得るでしょう。当然、今の裁判員を含まないシステムでもそれは一定数あることではあるんですけれど。
 と、珍しく長い前振りのあとで紹介するこの漫画。
 ズバリ裁判員システムというシステムを前提にした、裁判官を主人公にした漫画です。ただし、リアルで現実的な裁判官と裁判員の話ではなく、オカルト的な要素をプラスしてエンタメ性を高めています。この作品世界では、普段人々はその姿を見ることはありませんが、それぞれの人間に一人ずつトントンという名前の生き物が個々の人間の記録係として存在、活動しています。彼ら同士は別段に戦うこともなければ、お互いの人生に干渉することもなく、ひたすら自分の担当の人間のことを記録し続けています。言うならば、三戸虫のようなものがいるという設定になっています。ただ、そういう世界でも稀に何万人かに一人、そういう存在が生まれながらにくっついていない人間もいます。本作の主人公であり判事の辺見直留(ジキル)もそういう人間の一人。彼はそれが故に、ある日、トントンたちを人間に見せることも出来るハイドという存在に取り憑かれ、ハイドとトントンと自分の寿命の一ヶ月を介して他人の行動の記録や言動を部分的に知ることが出来るようになります。彼は職業柄、被告が本当は無罪か有罪か調べることになるんですが、この能力がついた結果、その事実自体はたちどころに分かるようになります。が、裁判員制度のもとでは自分が事実を知っていることと、その裁判の中で下される判決は無条件に一致することはありません。そこで、ジキルは真実と裁判のギャップを埋めるため、弁舌とトリックを駆使して、裁判を本当の事実に即したものにするため、動き始めます。勿論、それは事件の本当のことがどうかはさておき、判事としては許されないことで、、、そのあたりの葛藤と法廷ものの面白さが醍醐味の漫画になっています。 
 裁判員制度自体が出来たばかりのシステムですし、ある意味で、これは前例のない漫画と言えるでしょう。これから先がどうなっていくのかはわかりませんが、現時点ではいい感じで滑り出した漫画で先が楽しみです。
 

ジキルとハイドと裁判員 1 (ビッグコミックス)

ジキルとハイドと裁判員 1 (ビッグコミックス)